第五十四話 半蔵の選択その三
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それでだ。伊賀についてこう言うのだった。
「百地三太夫という者が幅を利かせているそうだな」
「あの者ですか」
「氏素性はわからぬが」
忍者だからだ。それがわからなくて当然だった。
しかしだ。家康はさらに話すのだった。
「相当な術の使い手だそうだな」
「はい、その強さはです」
忍者としてどうかと。服部はその百地についてこう話す。
「それがしなぞ足下にも及びません」
「己の実力は知っておるか」
「腕には自信があります」
まずはこう答える服部だった。そのうえでこうも答えた。
「だからこそです」
「百地の実力もわかっておるか」
「あれは。まさにあやかしの域です」
「ふうむ。わしが見たところ御主もかなりのものじゃが」
「それがしは人としての強さです」
それだというのだ。彼の忍術の強さは。
しかしその百地の強さは。どうかというと。
「人のものとは思えませぬ」
「そこまでの者か」
「当然誰かにつくこともありませぬ」
「伊賀の忍の里におるだえか」
「そこから出ませぬ」
百地の行動についてこう話す服部だった。
「そうしているのです」
「また厄介な者じゃな」
「宜しければそれがしからお話しますが」
謹厳な調子でこうも話す服部だった。
「それは」
「いや、よい」
「宜しいのですか」
「わしがただ感じたことだが」
それに過ぎないと前置きしてからだ。家康は服部に話した。
「あの百地という男はどうも」
「怪しいと」
「伊賀の者から見てどうじゃ」
服部はどう思うかというのだ。その百地について。
「どう思う、御主は」
「確かに。あの者は」
服部もだ。一旦表情を真面目なものにさせてから話す。
「普段は姿を全く見せませぬ」
「全くか」
「それがし。同じ伊賀の上忍である者でもです」
「久しく会ってはおらんか」
「はい、ありませぬ」
実際にそうだというのだ。
「何年もです」
「服部と百地は別の系列にあるのか?」
「あるといえばあります」
同じ伊賀者であってもだ。そうだというのだ。
「しかしそれでも。同じ伊賀者ですから」
「話し合ったりすることはある筈だな」
「ですがそれがありませぬ」
全くだ。ないというのだ。
「この五年辺りは」
「おかしいな。明らかに」
「伊賀者といっても色々ですが」
「百地の系列はか」
「はい、伊賀者の中で異様なものがあります」
そうだというのだ。彼の系列はだ。
「それは否定できませぬ」
「左様じゃな。やはりおかしい」
「だからこそ会われませぬか」
「そうする。勿論用いぬ」
百地についてはだ。そうだというのだ。
「むしろどうした者か調べておきたい程じゃ」
「そう言われますか」
「左様じゃ。それではじゃ」
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