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人狼と雷狼竜
人狼の忌み名
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お母さんの願いとは違ったかもしれませんが、これからもヴォルちゃんを見守ってあげて下さい」
 夏空が囁くように言って、両手を合わせる。彼女はヴォルフの母親のことを覚えているのだろう。同じく掌を合わせている神無も同じように覚えているのだろう。
 当時まだ生まれていなかった小冬ですら、掌を合わせている。
 その行為の意味が分からないから、ヴォルフにはそれが出来なかった。理解出来たのは自分の母親の名前。ただ、それだけだった。
 ヴォルフは、墓の前で掌を合わせる三人の姿とその光景を、ただ見ている事しか出来なかった。
 

 



 墓地から戻って来たヴォルフ達は、無言で村の道を歩いていた。
 三人は何か言いたそうだったが、ヴォルフの出す雰囲気に押され口を開くことが出来なかった。
「……少し外す」
「え? ヴォルく……」
 神無が、徐に告げられた言葉の意味を問い質す前に、ヴォルフは跳んでいた。一足で建物の屋根に上がると更に跳び、あっという間に姿をくらました。
「……何?」
「お姉ちゃん。もしかして、何か不味い事しちゃった?」
 小首を傾げる小冬をよそに、神無が夏空に問いかける。
「……ヴォルちゃんには意味が無かったのかも知れません」
 夏空が節目がちに言う。
「え?」
 対する神無はその言葉の意味が分からなかったようだ。
「何となく雰囲気で分かりました。ヴォルちゃんは、ここが自分の居場所じゃないって思っているんだと」
「……どういう意味?」
「それは……」
「彼の忌み名に因る物でしょう」
 小冬の問いに、夏空が言い辛そうに口を開いたが、その言葉は違うところから来た。すぐ傍にあった店から出てきた村長だ。何かを包んだ包み紙を抱えている。
「忌み名?」
「人狼。それが彼に付けられた物です。特定の縄張りを持たず、風のように雲のように流れ行くもの。そしてその先々で災厄を齎(もたら)す。あくまで噂程度ですが、彼はそれを自覚しているんでしょう」
「どういう意味なんですか!?」
「彼が行く先々で、強力なモンスターが現れるのですわ。そしてそれを退治するのも彼です」
 現れるのは偶然だとしても、それは英雄ともいえる行動ではないのか?
「ですが、その度に多くの死傷者を出しているのですわ。そして彼だけが無傷か軽傷で済んでいるのです」
 確かにそれは問題になる。他人を囮にしていると思われてもおかしくない。
「それはアイツの戦術に他人が付いて行けないんじゃない? 私もアイツに背中を任せる……なんて言われる自信が無い」
 小冬の言葉は尤もだった。
「ええ。彼に付いていけるのは同格の上級ハンターでもやっとだと聞きます」
 その言葉に三人が一斉に村長を見る。皆一様に驚きを隠せない。
「獣染みた俊敏性。あまりに鋭すぎる太刀筋。
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