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人狼と雷狼竜
人狼の忌み名
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な民家なら何軒も立つだろう。だが、それだけの場所には何も無い。
 否、何も無いということはない。周囲は木で囲まれ地面には苔が生い茂っており、井戸もある。
 そして、石造りの小さな柱が無造作に何本も建てられていた。
「……ここは?」
「墓地です。ここには、この村で亡くなった方々のお墓があるんです」
 夏空がそう言って先を歩いていき、振り返った。
「勿論、ヴォルちゃんのお母さんのお墓もありますよ」
 その言葉を聴いたヴォルフは、頭を重い何かで殴られたような衝撃を受けた。
 自分も人間なのだから母親がいるのは当然だ。だが、それは『知識として知っている』ような物だった。それが今、彼にとって得体の知れない感情となって胸の奥に重く圧し掛かってきた。
「さ、お母さんに挨拶しましょう?」
 夏空がそう言って先に歩いていく。
「……ほら、行きなさいよ」
 後ろに立っていた小冬が、しかし優しくヴォルフの背中を押した。そんな彼女の手には、いつの間にか色とりどりの花束が握られている。紙で包まれてはいない。ここに来るまでの道中で少しずつ集めたようだった。
「行こう?」
 神無がヴォルフの前に出て振り返る。
 その先では夏空が立ち止まってヴォルフを待っていた。
 ヴォルフは何とも言いがたい感情に囚われた。今まで、母親の事を思ったことがあっただろうか? 町で小さな子供とその両親を見た時は、自分にもこんな時があっただろうか? と思うことすらなかった。
 両親……そう、父親の件もそうだ。
 父親が死亡した地は故郷から遠く離れた土地だった為に、その墓は狩人たちの共同墓地だ。その墓には父親が埋葬された時にしか行っていなかった事を今になって思い出した。
 更に言えば、自分がユクモ出身である事もこの地に召喚された際に初めて知ったくらいであり、父親の故郷も知らない。
 朧気ながらも、父親は自分と同じ金髪碧眼だという事を覚えている。この地方の人間ではない。
 その事を思うと、何かが胸の奥に突き刺さる。この感情は一体何なのか……
 いつの間にか、一つの墓石の前に立っていた。
 神無が桶に入れた井戸水を柄杓で掬ってゆっくりと墓石に掛け、小冬が花を墓の左右に植えていた。
 墓石には綾乃守(あやのかみ)陽真理(ひまり)と記されている。ヴォルフをそれを黙ってみていることしか出来なかった。
 知らない名前だ。父親は母の事は話さなかった。話す事はいつも狩りの事ばかりだった。母が何故死んだのかすら知らないし、興味も沸かなかった。
「さ、ヴォルちゃん?」
「……」
 ヴォルフは動かない。いや、動けないのだ。墓参りなどしたことが無い。父親が埋葬される時も、ただ立っていただけだ。
「……おばさま。ヴォルちゃんは、立派になって戻ってきましたよ。最年少の上級ハンターです。
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