人狼の忌み名
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上げろ!」
怒声で命じられた男は肩を竦めつつ銅鑼の傍に行き、思い切り叩いた。
「いざ! 尋常に! 勝負!」
正太郎がそう言い終わって刀を最上段に振り上げ―――――た時にはヴォルフは彼の背後に立っていた。
僅かな鞘鳴りの音が響いた。
「な!?」
「遅い一太刀だ。その間俺は……」
振り返りながら紡がれるヴォルフの言葉と共に、軋むような僅かな金属音が響き始め――――
「五回は斬れる」
正太郎の太刀、兜、鎧、篭手、下穿きに切れ目が走り、それらは全て一斉に崩れ落ちた。
「あ……あ!?」
正太郎が鍔元から『斬られた』太刀を凝視して絞るような声を出す。
「……見えたか?」
「いや、何が起きたのかすら……」
数秒の後、周囲は爆発が起きたかのような歓声に包まれ、その中でインナーだけとなった正太郎は気を失って鎧の破片の中に崩れ落ち、ヴォルフは正太郎には一瞥すらせずにその場から立ち去った。
「……」
「嘘……」
「凄ぉいです〜」
呆然とするのは小冬、愕然と声を漏らすことしか出来ないのは神無、何処かズレているのか単純に感心するのは夏空。
そんな三人に、ヴォルフは近づいて言った。
「待たせたな」
「あ、うん」
気後れした神無が返事をする。
「ヴォルちゃん。どうやったんですか?」
「切っただけだ」
「あんなに速く? 凄いです〜」
相変わらず夏空は感心するだけだ。
「金属を切った? なんて非常識」
「人を焚きつけておいて、それだけか?」
「あんたの実力が見たかった」
小冬がそっぽを向いて言った。ヴォルフはそれを聞いて軽く溜め息を吐いた。
「何よ?」
「ヴォル君。溜め息なんて吐いちゃダメだよ。幸せが逃げちゃうよ?」
溜め息を吐くヴォルフに神無が嗜めるように言う。
「そうなのか?」
「うん」
「気を付けよう」
ヴォルフのその言葉に神無は嬉しそうに微笑み、無視された小冬は眉根を寄せて睨みつける。機嫌が悪い小動物が表情を作れるとしたらこんな顔だろう。全く迫力がない。
「何か文句があるの?」
「多過ぎるな……」
ヴォルフの言葉に小冬はムッとした顔になる。そんな様子を夏空は微笑ましく見詰めていた。
「平和ですねぇ〜。あ、そうそうヴォルちゃん?」
「ん?」
夏空が思い出したようにヴォルフに話しかけた。
「案内したいところがあるんです。一緒に来て下さい」
「ああ」
ヴォルフとしてはこれから特に用も無かったので、夏空の提案には乗ることにする。ただ、それ以上に夏空の言葉には有無を言わさない何かがあるのをヴォルフは感じ取っていた。断った所で無駄だと言う事も。
夏空に案内されたのは村の外れ……訓練所とは正反対の位置にある広い所だった。広いのだ。建物を建てるとしたら、一般的
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