第五十二話 青と黄その十一
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「駿河にしても信濃にしてもまだ治めねばならん」
「はい、国が広うなりましたし」
「そのこともあり余計にです」
「万全に治めなければ」
二十四将達はただ戦に強いだけではないのだ。政においても信玄の手足となりそのやるべきことを忠実に果たす。だからなのだ。
彼等も政の重要さはわかっていた。そして主の考えをそのままにだ。国を治めることについては実に真剣に考えているのだ。
その彼等もだ。信玄の言葉に頷いたうえで話していく。
「それが終わってからにしましょう」
「殿が天下を治められればこの国は見事に治まります」
「その為にもです」
「今は」
「そうじゃ。今はじっくりと治める時」
「ではこのまま今は焦らずに」
「我等の為すべきことに専念しましょう」
こうしてだった。武田の方針は決まったのだった。
そのうえでだ。信玄は家臣達にこのことを話したのだった。
「してその都のことじゃが」
「はい、それですが」
穴山がすぐに応えてきた。
「刻一刻と不穏になっております」
「まさかとは思うが」
信玄は穴山の言葉から深刻な顔になって述べた。
「公方様を殺めるか」
「先にもありましたし」
穴山はまた言った。
「義教様の時に」
「そうじゃな。先例はある」
奇しくも信長と同じことをだ。彼等は話す。
「だからそれもあるのう」
「確かに。まさかとは思いますが」
「三好三人衆も曲者じゃ」
信玄はまずはこの三人について話す。
「しかしまだじゃ。松永に比べれば大したことはない」
「あの者と比べればですか」
「三好家中の中でも実力者の彼等もですか」
「大したことはない」
「そうなのですか」
「そうじゃ。大したことはない」
またこう言った信玄だった。
「松永久秀は恐ろしい者じゃ」
「出自もわかりませぬが三好家中で忽ちのうちに力をつけましたし」
「そして家中を蝕んできております」
「そうしたものを見れば」
「あの者はですか」
「そうじゃ。奸じゃな」
信玄はあえてだ。この否定の言葉を用いた。
そのうえでだ。松永についてこうも述べた。
「近頃あの者は蠍と呼ばれておるそうじゃな」
「はい、大和の蠍ですな」
「そう呼ばれているとか」
「どうやら」
「まさにそうじゃ」
蠍だとだ。信玄も松永をこう評した。
「あの者は蠍に他ならぬ」
「毒針で刺し殺す蠍ですか」
「南蛮にいるというあの禍々しい蟲ですね」
「それですか」
「そうじゃ。蠍はどんな強い者でも刺し殺す」
それだけだ。剣呑な存在だというのだ。
「それこそ龍でも獅子でもな」
「ああした全てを圧する存在でもですか」
「刺し殺してしまいますか」
「毒で」
「無論虎もじゃ」
己が虎と言われていることを知っての言葉
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