暁 〜小説投稿サイト〜
レンズ越しのセイレーン
Mission
Mission6 パンドラ
(5) ニ・アケリア村 小川の堤防(分史)~ミラの社(分史)
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 ユティはカメラを宝物のように抱え、切なくまぶたを閉じたまま動かない。
 センチメンタルに浸りたいなら放っておいてやろう。ユリウスが気を利かせて立ち上がり、その場を去ろうとした時。

「ねえ」

 背中に目でも付いているかのようなベストタイミングで、冷めきった声がユリウスを追って来た。

「さっき、エルを斬ろうとしたよね。どうして?」
「――ビズリーに利用されるくらいなら殺したほうがマシだからだ。エルがビズリーに『鍵』として利用されることになれば、必然的にルドガーもこちら側に深く関わらざるをえない。一度関わった相手、しかもあんなか弱い見目の少女を見捨てて日常に戻れるほど、あいつは冷血漢じゃない」
「アナタとちがって」
「そうだよ、俺と違って。あいつは優しすぎる。でもそれでいい。こんな世界は、あいつには要らない」
「要る要らないはルドガーが決めるんだけど……要するに、『鍵』が社長さんに渡るのがいけない?」
「かなりな」
「じゃあ、アナタも『鍵』を持てたら、条件は互角?」
「あの娘を強奪しろとでも言うのか」
「その逆。アナタが失ったと思い込んでるモノを返してあげる」

 寝言を、と皮肉ってやろうとふり返り――少女の手に握られた物に、目を見開いた。

 ユリウスの持つ懐中時計と寸分違わぬデザインの懐中時計。

 クルスニクの者が持って生まれる時計は一人一つ。一つとして同じデザインは存在しない。ユリウスの時計はもちろんポケットの中にある。では、この時計は。

「ユリウスに近づくと消えちゃってた。でもここは分史世界。同一存在でも同時に存在できる」
「――『クルスニクの鍵』……」
「契約の追加ルールを提案する。『鍵』が入用になったらワタシに声、かける。その代わり、エルには決して手を出さない。ワタシとアナタ自身の安全確保は最優先に」

 ユティは銀時計を突き出し、強い笑みを刷いた。


「ワタシが、アナタの希望になる」


 ――クルスニクに生まれついた時点でユリウスに希望などない。いや、幼い頃はまだ、信じきってきた。世界は希望に満ち、己のために回っていると。
 その幻想が崩れた日、ユリウスは己を取り巻くモノたちから全力で逃げ出した。

 今の「希望」は弟だ。ルドガー自身と、ルドガーとルルが迎えてくれる家。あそこにだけ光がある。
 だが、ルドガーは分史対策エージェントになり、クランスピアに付いた。これで最後の希望も閉ざされた。――そう、思っていた。
 だが、もし。もし仮に、閉じた匣を勇気を出して開ければ、匣の底には「それ」が残っているのかもしれない。
 「それ」が弟そのものでなくとも、弟を守ることに繋がるなら構わない。開いた匣から新しい災厄が漏れだしても、底にある「ルドガ
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