第五十一話 堅物のことその十
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ある場所を頭の中に見てだ。村井に話した。
「墨俣じゃな」
「その地ですか」
「あそこがよいかもな」
「うむ、あの場所まで進めたい」
まずはだ。そこだというのだ。
「そしてそのうえでじゃ」
「墨俣に足がかりを築き」
「稲葉山を攻めるとしよう」
「ふむ。しかしです」
「墨俣にじゃな」
「城があるかといいますと」
「確かない」
それはだ。ないというのだ。
「なければ築くまでじゃ」
「そうされますか」
「そうする。ではじゃ」
ここでだ。また村井に話した。
「まずは攻める用意を進めておこう」
「もうですか」
「話は早いに限る。それで龍興じゃが」
そのだ。斉藤の主だ。彼がどうかというと。
「まだ若いというのに酒色に溺れているそうじゃな」
「どうやらその様で」
村井もだ。その通りだと答える。その龍興については。
「常に女をはべらし酒を飲み」
「それでは政もままならぬな」
「しかも家臣達を侮り」
悪い話がさらに続く。
「その忠誠も揺らいでいるとか」
「ふむ。では攻めやすいな」
「ですな。それでは家臣達に対しても」
「調略を進める」
それもするというのだ。
「何時でも攻められる様にな」
「そうしてですな」
「進めていく。よいな」
「はい、それでは」
こうした話をだ。村井にしたのだった。そうしてだった。
信長は家康を待ちながら既に斉藤を攻める用意をしていた。そしてそれは着々と進んでいた。彼は今は静かに動いていたのだ。
そんな彼を見てだ。
相模の北条氏康は小田原においてだ。こんなことを言った。
「尾張の蛟がまた大きくなるわ」
「織田信長がですか」
「さらにですか」
「そうじゃ。今度は美濃じゃ」
その国をだと。どうかというのだ。
「手に入れるであろうな」
「ううむ、うつけと思っていたのに」
「忽ちのうちに尾張を手中にし」
「今川殿を破り」
「返す刀で伊勢と志摩を手に入れてですか」
それだけではなかった。信長の動きは。
「そして次は美濃」
「止まるところを知りませんな」
「まさに天に昇っておるわ」
氏康は蛟がどうしたものかということから話す。蛟は龍になるものだ。水の底から出てそうして昇ってだ。そうなるものなのだ。
そしてだ。信長はそれだというのである。
「一気にな」
「これでは武田殿や上杉と同じですな」
「天下でも屈指の大名になりますか」
「美濃も手に入れ」
「そしてじゃ」
さらにだと。氏康は家臣達に話す。
「都も近畿も手中に収めるであろう」
「では天下随一の家になる」
「そうなりますか」
「なるな。間違いなく」
氏康は遠い相模からそのことをもう見ていた。
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