第十四話 水と木その九
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「しかし」
「しかしですか」
「僕は剣士の人とは戦いません」
「その代わりに怪物と戦ってですか」
「力を蓄えます」
そしてなのだった。
「そしてその力で僕は」
「戦いを終わらせるというのですね」
「戦わずに戦いを終わらせます」
「矛盾ですね」
上城のその考えはだ。声は否定してだった。
そのうえでだ。また彼に話したのだった。
「それは決して一つになるものではありません」
「だから無駄ですか」
「はい、貴方は本当にです」
「見えていないですか。戦いが」
「先程も言いましたがそうした考えの方は過去にもおられました」
全てを見てきた口調でだ。声は彼に話していく。
「しかしどなたもです」
「誰もですか」
「それを果たせませんでした」
そうだったというのだ。
「戦いを終わらせることなくです」
「そして倒れていったんですか」
「ですから貴方もまた」
「なら僕がその人になります」
意地だった。意地が彼にそう言わせていたのだ。
それと共にだった。上城は前に出ていった。もう一歩。
そしてそのうえでだ。その獅子に向かった。獅子もそれを見て。
咆哮しそうしてだ。上城に襲い掛かってきた。その獅子にだ。
上城は剣を向けてだ。まずは突きを入れた。
月は突き進んでくる獅子の口を狙っていた。だがそれは。
獅子は跳んだままかわしてだ。そのうえだった。
空中で姿勢を転換させてだ。上城に襲い掛かってくる。さらにだった。
だが上城もだった。その迫る前足の爪をだ。後ろにのけぞってかわしたのだ。
「上城君!」
「うん、大丈夫だから!」
こうだ。上城は攻撃をかわしながら樹里に答えたのだ。
「見切れたよ」
「そうなの、よかった」
「ええ、何とかね」
また言う彼だった。そうしてだ。
体勢を戻しながらだ。再び剣を構え。
自身の背面に着地した獅子に身体を向けてだ。再び対峙する。その中でだ。
また声がだ。彼に言ってきたのだった。
「一つお話しておくことがあります」
「何ですか、今度は」
「その獅子のことを知っていますか」
「ネメアの獅子のことですか」
「はい、その獅子は死にません」
つまりだ。不死身だというのだ。
「あらゆる弓も剣も効かないのです」
「そうしたことでは死なないっていうんですね」
「そうです。ですから貴方の剣ではです」
「この獅子は死なないんですか」
「それではどうされますか」
問いだった。明らかなだ。
「この怪物をどうして倒されますか」
「ヘラクレスは倒していますね」
上城が今言うのはこのことだった。その獅子と対峙しながら。
獅子は既に彼に牙を向けていた。身体を屈め今にも来んとしている。
その獅子を見つつだ。彼は言ったのである。
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