Mission
Mission6 パンドラ
(4) ニ・アケリア村 小川の堤防(分史)
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手を縺れさせながらカメラを構える。奇跡的に、ユリウスの表情が変わる前に写真に収めることができた。
「……ユティ?」
「ごめんなさい。すごく素敵な顔してたから」
「もうそれに関しては諦めてる。せめて予告してくれないか」
「無理」
「言い訳しない潔さは評価できるんだがな……前にも訊いたが、どうしてそう何でもかんでも撮りたがるんだ? タイムカプセルと言ったが、どういう意味なんだ?」
ユティは黒い一眼レフの輪郭をなぞる。意を決し、ユリウスにカメラを差し出した。
「触ってみて」
「何で」
「いいから」
ユリウスは戸惑いがちにカメラに触れる。
「どんな感触?」
「冷たいプラスチックの感触だが……それが?」
「ワタシは、耕したての土はこんなかな、っていつも思うの。ゆったりした春風も、そうかな。ワタシにとってこのカメラの感触は、世界で一番優しくてやわらかい」
このカメラはユティが父以外に初めて愛した男たちからのプレゼントだった。今でも忘れられない。指先一本で世界を切り抜いた感動。そして、男たちの片割れから教えられた、大切なこと。
「バランが言ったの。模写とか、写真とか、ビデオとか、記録媒体って呼ばれる物は、人が『今』『ここ』であった出来事を未来に残したいって気持ちから生まれた、この世で一番大切な行為だ、って」
「研究者としてはまっとうな意見だな。研究記録がないんじゃ、どんな大きな成果もただの妄言だ」
「うん。誰かにとってとても大切なモノでも、在ったんだって残しておかないと世界中が忘れちゃう」
道具、家、街、道、ビル。
海、空、樹、花、土。
人、獣、魚、虫。
ぜんぶ。
「だからユティはカメラを握るの。その時、そこに、それがいたんだって、残すために」
「……あいつも殊勝な思想を持つようになったもんだ」
「人からすれば撮られて不愉快でも、撮らなきゃ残らないなら、ユティはどう思われてもいいから、撮りたい。残したい。かーさまとお別れしてから、欲しいものとか、したいことってなかったのに。そう、強く想うの。これって、どうしてかな」
「そりゃあ、写真を撮るのが楽しいからだろう」
ユティは新種の精霊でも発見したような顔つきでカメラに触れた。
「これが、タノシイ――」
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