Mission
Mission6 パンドラ
(4) ニ・アケリア村 小川の堤防(分史)
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ユースティア・レイシィはかつてないほどに落ち込んでいる。
どのくらい落ち込んでいるかというと、ニ・アケリアの自然の樹木や草花を前にしながらカメラを構えず、ただ膝を抱えて小川に小石を投げ込むくらいである。
(エルが割って入るなんて聞いてない)
――ルドガーが捨てた真鍮の時計をユリウスが拾おうとした直前、エルが真鍮の時計を拾って抗議した。これは自分の父親のものだ、父親とルドガーの時計が一つになったんだ、と。
(バレた。ユリウスにエルが『鍵』だって。どうすればいい? ユリウスがルドガーからエルを取り上げたらルドガーは確実にユリウスを追ってもっと『審判』の泥沼にはまる。いっそユリウスがエルを殺すのを止めなきゃよかった? そしたらエルを通して契約してるルドガーは骸殻を使えなくなる。それで時計をユリウスに返せば完全にルドガーは部外者……)
「聞き込みをサボって何をしてるんだ」
顔を上げる。呆れ顔のユリウスが立っていた。
「自分の無力を省みてた」
「何がそんなに気になるんだ? 俺がルドガーから時計を取り戻せなかったことか、エルが邪魔したことか」
「ぜんぶ」
はああああ。息を吐いてまた膝に突っ伏す。
「ユリウスは、生きてて楽しい?」
「何だ、藪から棒に」
「楽しい?」
「……楽しいばかりじゃないさ。むしろ苦しいことだらけだ。それでもその苦しい泥沼の中から、掌程度のほんのささやかな幸せを見つけて、生きててよかったなと思うんだ。それが大人の処世術だ」
「アナタにとってのルドガーみたいな?」
「ああ。俺の生きる希望だ」
てらいもなく口にした男は、今までで一番優しい表情をしていた。
「ルドガーは、どうなのかしら。生きてて楽しいって、生きたいって、ちゃんと思ってるかしら」
「そればっかりは本人に聞かないと分からない。外から充実してるように見えても、本人は何の喜びも感じてないかもしれないし、逆も然りだ。もっとも、エージェントになって充実してると言われたら、ちょっとばかりキツイけどな」
「ユリウスにも分からない? お兄ちゃんなのに?」
「しょうがないだろう。分かれたらこんなに苦労してない。遅めの反抗期か……?」
今度はユリウスが頭を抱える番だった。彼は弟が絡むとまったく凡庸な男になる。
隣で沈まれるのも気分がよくないので、ユティは別の話題を切り出した。
「そっちの首尾は?」
「ああ――アルフレドもローエン氏も今は聞き込み中だ。ただ、ローエン氏はエリーゼ君とジュード君をこの一件から遠ざけたいみたいだ。実質動いてるのはアルフレドとレイア君、ルドガーとエル、だな」
――あの時計騒動の直後に現れたのは、村の祀る生き神、精霊の主マクスウェルこ
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