第五話 初陣その九
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その彼がだ。信長の話を聞いて嘲笑っていたのである。
「あそこで太源雪斎を討てば三河は取り戻せたぞ」
「討てましたか」
「殿はそう思われますか」
「あそこで一気に攻めて討つべきじゃ」
こう言う義景だった。
「わしならそうするぞ」
「拙者もです」
「それがしもです」
家臣達は彼に続いておべんちゃらめいたことを言う。
「やはりそうしていました」
「無理をしてでも」
「しかし何じゃ?帰ったぞ」
義景はこのことを聞いて馬鹿にしているのである。
「戦も知らんおおうつけじゃったな」
「いやはや、その通りで」
「やはりうつけはうつけ」
「どうということはありませんか」
「あ奴はじきに終わるわ」
義景は信長の行く末をそうなると確信していた。彼はである。
「間違いなくな」
「所詮織田家は成り上がり」
「我が朝倉家とは違いますしな」
「ふん、我が家と同格と思ってもらっては困るわ」
実は織田家と朝倉家は同じ斯波家の家臣筋であった。だがその家柄は朝倉家の方が上であるのだ。だから義景もその家臣達も信長だけでなく織田家全体を馬鹿にしているのである。
「その様な家のうつけなぞな」
「滅びてしまえばよいのです」
「今川にでもやられて」
「全くじゃ。そうなってしまえばいいのじゃ」
最後に忌々しげに言う義景だった。そしてその後で酒を飲みながら能を観て楽しむのであった。政よりもそちらに興があるようですらあった。
だが、だ。信長の話を耳にして越前の者でも目を瞠る者がいた。
一人の白髪の老人がだ。信長の初陣の話を聞きすぐに彼について細かく調べさせた。それは彼のほぼ全てを知る程のものだった。
忍、それもかなりの手だれに、この老人だけに仕え老人だけが使いこなせる者に調べさせたそれは信長のほぼ全てを調べたものだった。老人はそれを見て言うのであった。
「織田信長、恐ろしい男だ」
「まだ若いというのにですか」
「少なくともうつけなどではない」
老人は断言してた。
「それは間違いない」
「では殿は」
「わかっておられるのだ」
言葉に悲しいものが宿った。
「あの男のことをな」
「そうなのですか」
「これではのう」
老人の言葉にある悲しみがさらに増した。
「朝倉もどうなるか」
「わかりませんか」
「わしももう長くはいられぬ」
老人は目を閉じて述べた。
「だが。わしの後は」
「どなたがおられるでしょうか」
「誰か出てくれねばならんのだ」
彼は言った。
「わしの、朝倉宗滴の後にもだ」
「必ずや出ます」
忍は彼を励ますようにして言ってきた。
「そして朝倉はこれからも」
「だといいがな。織田はもしやすると」
「織田は」
「我が朝倉を脅かす存在になるやも知れぬ」
宗滴は心
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