第十四話 水と木その五
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「僕にはちょっと」
「すぐには答えられないですか」
「すいません、このことも」
「戦いの中で決められて下さい」
聡美は彼に切実な面持ちで告げた。
「どちらにしても上城君が死ぬことはあってはなりません」
「そうですよね。私もそう思います」
樹里はいささか前に出る感じで述べた。
「そんな。戦いなんかで死ぬことは」
「そうです。あってはならないですから」
「だから上城君」
樹里は聡美とやり取りをしてから切実な顔になり上城に顔を向けた。
そのうえでだ。彼に対して今度はこう言うのだった。
「本当にいざとなったらね」
「剣士を辞めることも」
「ええ、考えて」
こう彼に言うのである。
「だって死んだら何もならないから」
「戦いを止める為に剣士になっても」
「死んだら何にもならないから」
樹里はあくまで彼を気遣って言っていた。それは彼にもわかる。
だからだ。余計に困惑して言う彼だった。
「けれど僕は」
「戦いを止めたいのね」
「そして終わらせたいんだ」
このことを言うのだった。切実に。
「どうしてもね」
「だから剣士でいるのね」
「死にたくはないよ、僕も」
否定できなかった。この事実は。
「けれどそれでもね」
「戦いをどうしても」
「無益じゃない。何もならないよ」
剣士の戦い、己の望みを実現させる為に最後の一人まで戦うその戦いについてだ。上城は言う。それは否定の言葉である。前から同じだった。
その否定をだ。彼はまた言うのだ。
「自分だけのことを考えて他の人を倒すなんて」
「そう思われるからですね」
「僕は戦いを終わらせたいです」
毅然としていた。今の彼は。
「何があっても」
「だから剣士であり続けますか」
「そうです」
辞める気はなかった。全くだ。
「絶対にです」
「わかりました。ではです」
「はい、僕は生きます」
どう生きるかだった。ここで問題になることは。
「剣士として生き、そして」
「戦いを終わらせられますね」
「そうします。絶対に」
「それなら。強くなって下さい」
聡美は優しい目になった。そしてその目でだ。
彼を見てだ。こう告げたのだ。
「剣士として」
「そうしてその力で、ですか」
「あの方を。目覚めさせられれば」
ふとだ。聡美は言った。
「何かができて。その力で」
「?あの方?」
「誰ですか、それは」
上城だけでなく樹里もふと気になって尋ねた。
「あの方って」
「一体」
「あっ、それはですね」
ここでもだ。聡美は自分の失言に言ってから気付いてだ。
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