第五十話 徳川家康その一
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第五十話 徳川家康
氏真は三河においてもう気楽にその日々を楽しんでいた。まずは蹴鞠だ。
百姓の子供達を集めてだ。その妙技を見せるのだった。
鞠を軽やかにかつ大胆に蹴って遊んでみせてだ。そのうえで言うのである。
「さて、御主等はまだここまではできない」
「そんなのとてもできませんよ」
「そうですよ」
これが子供達の言葉だった。
「氏真様凄過ぎますよ」
「よくそんなことができますね」
「おいら達にはとても」
「無理ですよ」
「誰でも最初は無理じゃ」
そうだとだ。氏真は子供達に笑って話すのである。
「麿にしてもじゃ」
「最初はできなかったんですか?」
「そうだったんですか」
「誰でも最初はできん」
こう子供達に話すのである。
「しかし毎日少しずつでもやっていけばじゃ」
「できるようになるんですか?」
「そんな感じで」
「そうじゃ。なれる」
笑顔でだ。彼は子供達に話す。
「何時かはな」
「そうですか。じゃあおいらは」
「おいらもです」
「毎日していきます」
「そうすればいいんですね」
「蹴鞠だけではないぞ」
それに留まらないとだ。氏真はこのことも話した。
「他のこともじゃ」
「他っていうと?」
「文字とかもですか」
「ああしたこともなんですか」
「文字もあれじゃ。毎日書いていけばじゃ」
どうなるかというのだ。
「覚えるからのう」
「おいらあれ苦手ですけれど」
「それでもなんですか?毎日書いていればですか」
「覚えていくんですか」
「左様。毎日少しずつでもじゃ」
またこう話す氏真だった。
「身に着くのじゃよ」
「そうなんですか。それじゃあ」
「とりあえずやってみますね」
「そうしますね」
「そうするのじゃぞ」
こんな話をだ。百姓の子供達に気さくに話してだ。己の屋敷に戻る彼だった。そして何処か茶室を思わせる屋敷においてであった。
彼はだ。供の者から話を聞くのだった。
「松平殿ですが」
「どうやらです」
「ほう、早いのう」
こうした言葉だけでだ。氏真は事情を察して述べた。
「もう決まったのか」
「はい、近衛様も働かれて」
「そのうえで、です」
「決まりました」
そうだとだ。氏真の供の者達も話すのだった。
「徳川という姓になりました」
「そして御名前もですが」
「そちらもあらためられるとのことです」
「ふむ。では何もかもが変わるのじゃな」
氏真は自分で茶を淹れてそれを飲みながらだ。彼等の話を聞いて述べた。
「まことにな」
「そうです。最早松平殿ではありません」
「徳川になられます」
「では徳川何というのじゃ?」
氏真は姓を覚えたうえでその名はどうなるか尋ねた。
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