第四十九話 認めるその十一
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「聞いたな」
「はい」
その通りだとだ。帰蝶も頷いて答える。
「兄上が」
「そうじゃ。去った」
去ったと、この表現で妻に告げた。
「そうなったわ」
「敵味方に別れましたがそれでも」
「兄だったな」
「そうでした」
「では。伝えておく言葉はあるか」
妹してだ。それはあるかというのだ。
「今ならすぐに伝えられるが」
「兄上は私に楽しく過ごせと仰ったそうですが」
帰蝶が今言うのはこのことだった。
「そうですね」
「うむ。わしと共にな」
「では」
そこまで聞いてだった。
帰蝶は一呼吸置いてからだ。こう信長に話した。
「御冥福をお祈りしますと」
「それが伝えておくことか」
「そうです。あちらの世で楽しく」
兄が己に告げた言葉をだ。それを返す形になっていた。
「そうお伝えして頂ければ」
「左様か。それではな」
「はい、お伝え下さい」
「その様にな」
こうした話をしてだった。そのうえでだ。
実際にだ。帰蝶の言葉は信長を通して美濃にまで伝えられたのだった。それを聞いてだ。
心ある者達はだ。こう言った。
「やはり血を分けた兄妹じゃな」
「敵味方に別れていても」
「やはりそれは離れられん」
「決してな」
このことは信濃にも伝わっていた。幸村が言うのだった。
「戦国の世といえどな」
「血は否定できませんか」
「それは」
「血。絆と言うか」
それだとだ。十勇士達に話すのである。彼は今は両手にそれぞれ槍を持ちそのうえで稽古をしている。十勇士達がその相手だ。
嵐の如き攻撃を防ぎ逆に槍を繰り出し駆け回りながらだ。彼は言うのである。
「それは濃いものよ」
「血より濃いものはない」
「そういうことですな」
「左様、しかしじゃ」
ここで幸村の言葉が少し変わった。駆けながら言うのである。
「血より濃いとはいってもじゃ」
「それでもですか」
「まだありますか」
「それは親子や兄弟だけではない」
「といいますと」
「それは一体」
十勇士達も問う。稽古の中で。
「それがわかりませんが」
「血は親子や兄弟だけのものではないのですか」
「我等は既にだ」
そのだ。彼と十勇士達のことだ。
「その血を互いに重ね合わせたな」
「あれですか」
「あのことですか」
「我等は既に兄弟よ」
義兄弟であるがだ。そうなっているというのだ。
「そうした意味でだ」
「我等にも血より濃い絆ができている」
「そうだというのですか」
「そういうことよ。我等は」
四方八方から来る手裏剣をだ。その両手の槍を振り回し。
それで全て叩き落す。そのうえでだ。
跳びだ。そこで。
襲いかかって来た十勇士達にだ。槍を繰り出す。
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