第四十九話 認めるその七
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「あの時の町の」
「むっ、というと」
そう言われてだ。その若い男、長政も笑みになりだ。市に応える。
「それがしのあの時のことを」
「実は」
「ははは、御覧になられていたか」
何故見ていたかはあえて問わずにだ。長政は笑って言うのだった。
「左様、あの時はたまたま城の外に出ておった」
「それでだったのですね」
「うむ。あの騒ぎを収めた」
そうしたというのだ。
「老人に無体なことがあってはならぬからな」
「それでだったのですね」
「そういうことだ。しかし」
「しかし?」
「見ておるとはのう」
このことをだ。長政は笑いながら話すのである。
「いや、これは恥ずかしい」
「覗き見するつもりはありませんでした」
「そうじゃな。おそらくは」
長政も予想してみせる。
「あれじゃな。わしや近江がどういった感じなのかを確かめる為にあえて近江に入ってじゃな」
「おわかりですか」
「おおよそじゃがな」
わかったというのだ。
「成程、考えたものじゃ」
「それでなのですが」
「そこまで見てから決めようとするとは」
長政からの言葉だ。
「いや、見事」
「見事ですか」
「そこまでして決める者はそうはおらん」
嫁に入れてそれで終わらせる家が多いからだ。しかし信長はそこであえてそうしたのだ。そしてそれは市も同じだったからだ。
長政はだ。それを言うのだった。
「そこまでする者ならばよし」
「よし、ですか」
「わしの妻に、そして」
そして。さらにだった。
「手を結ぶに相応しい」
「では」
「それだけではないしな」
市のだ。その顔を見ての今度の言葉だった。
「いや、これ程までの美人とはのう」
「私は別に」
「まことに整っておる者程そう言う」
美貌を自覚せずともよいまでのものだからだというのだ。
「そういうことじゃ」
「はあ。そうなのですか」
「尚よい。ではじゃ」
「それではですね」
「宜しく頼むぞ」
「はい、こちらこそ」
こうしてだった。市は近江に入り浅井長政の妻となった。このことにより織田と浅井の同盟が成立したのである。
それを聞いてだ。美濃では。
国人達の間でだ。次第にだった。
「織田殿は三万五千の兵を持っておる」
「兵を見ると我等よりもずっと多いではないか」
「こちらは二万」
「いきなり差が開いておるぞ」
こう話す彼等だった。
「しかも近江の浅井殿と手を結んだ」
「下手をすると近江からも攻められる」
「唯でさえ東に武田がおるというのに」
「これでは」
動揺の雰囲気が漂いだしていたのだ。それで、だった。
国人達は次第に不安を感じだ。それでなのだった。
「織田殿につくか」
「そうするべきか」
「最早斉藤殿は駄目ではないのか」
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