第四十九話 認めるその二
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だからこそだ。今こう言うのであった。
「あの者達も使わせてもらおう」
「わかりました」
「無論そなた達もじゃ」
森にだ。顔を向けての言葉だった。
「存分に働いてもらうぞ」
「それはもう十二分に」
わかっていると。こう返す森だった。
「しかしじゃ」
「しかしとは」
「こうも言っておく」
ここで信長は笑顔になる。いつもの屈託のない、それでいて自信にも満ちた笑みでだ。森に対してこんなことも言うのであった。
「働いてもらうが命は粗末にするな」
「死ぬなと仰るのですか」
「容易にな。簡単には死ぬな」
これが信長の森に言う言葉だった。
「それはよいな」
「死ぬなと言われましても」
「難しいというか」
「武士ですから」
だからだというのだ。そしてそれに加えてであった。
「しかも戦国の世ですし」
「それでもじゃ。命は粗末にするな」
「ではなるべく生きよと」
「そういうことじゃ。簡単に死ぬことはわしが許さぬ」
このことは何度でも言うといった感じであった。
「よいな。生きるのじゃ」
「殿がそう仰るのでしたら」
「死んでは元も子もない。生きてこそじゃ」
「しかし殿のその御言葉と御考え」
それはどうなのかとだ。森はこう彼に返した。
「戦国の世ではかなり変わっておりますな」
「そうか?誰でもそうであろう」
「生きたいというのですね」
「本音はそうじゃろう。人は確かに必ず死ぬ」
それからは誰からも逃れられない。少なくとも信長は不老不死やそういったものには何一つとして関心がないことは間違いない。
「そして生き恥を晒すのもよくないがじゃ」
「それでもですな」
「死に急ぐことも命を粗末にすることも駄目じゃ」
「ではどういう時に死ねと」
「できればまっとうせよ」
その命をというのだ。
「そうあるべきじゃ。そして生き残れば」
「生き残る限りですか」
「恥を晒さぬ様にしてな」
「わかりました。ではそれがしも」
「御主はまあ。爺や権六と同じで糞真面目じゃがな」
森の生真面目で実直な性格はだ。褒めながらも苦笑いだった。
「御主や権六はともかくとしてのう」
「平手殿ですか」
「ははは、爺の頑固さは昔からじゃ」
まさにだ。信長が幼い頃からだった。
「あれには参っておるわ」
「ですがそれでも殿は」
「爺は爺でおらぬと困る」
平手についてだ。信長は何時になく率直に述べた。
「あれはわしに色々と教えてくれる」
「あの謹言で、ですな」
「そうじゃ。かつて唐の太宗がじゃ」
中国の歴史においても名君として知られている。軍事的にも卓越していただけでなく政治家としてもだ。その功績は比類なきものがある。その人物がだというのだ。
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