第五話 初陣その七
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「そして権六は先陣でした」
「さすればこれでよかろう」
信長は今度は不敵な笑みを浮かべていた。
「ではじゃ。全軍撤退じゃ」
「はっ、それでは」
「今より」
こうしてであった。信長の青い軍は速やかに兵を退いた。後詰の佐久間は後ろをよく守り敵を寄せ付けない。そうして軍を無事退かせたのである。
信長はすぐに那古屋城に入った。軍の損害は微々たるもので倒した敵は多かった。そのうえ尾張の要地を守り敵を退けた。実によい戦いだった。
それでも平手はである。まだ愚痴を零していた。
「あそこで雪斎を討てば。これからが楽になったであろうに」
「そうであろうな」
これは信秀も認めるところであった。
「もしやすると雪斎を討てたかもな」
「大殿もそう思われますか」
「やはり」
「もしやするとだ。しかしだ」
しかしここで信秀はだ。周りの己の家臣達に対してこうも話した。
「それで雪斎を討ち今川の勢いを弱める」
「そして三河を再び」
「我等の領地に」
「だがそれはだ」
信秀の目が光るのだった。
「どうなのだ」
「どうなのだといいますと」
「それは一体」
「それでよいのか」
考える顔でだ。言ったのである。
「わしはまだ尾張を統一しておらんな」
「残念ですが。それは」
「まだです」
信秀の悲願の一つであるのだ。尾張を統一しその主となる。だがそれには多くの難関があったのである。
「清洲が頑張っております」
「そして他にも」
「わしの望みはまず尾張だ」
またこう言ったのだった。
「三河ではないな」
「では三河に出るのは」
「愚策であると」
「そうじゃ。まずは尾張じゃ」
信秀はまた言った。
「そしてそのうえでじゃ。さらに力を蓄え」
「都へ」
「上洛ですね」
「そうすべきだ。今まで思い違いをしておった」
信秀は今はだ。難しい顔になっていた。
「だからじゃ。今川は退けるだけでよい」
「それよりもまずは尾張ですね」
「この国をまとめると」
「信長、あ奴はわかっておる」
そしてだった。我が子の名も出した。
「あの歳で。初陣で既にじゃ」
「では信長様はうつけではないと」
「余で言われているような」
「うむ、それは間違いない」
父としてである。このことは確信していた。
「若しうつけなら既に権六も新五郎も離れておるな」
「はい、信行様もおられますし」
「そしてその信行様もです」
兄である信長に仕え忠実な弟として家臣として傍にある。彼等はこのことも知っていた。
「信長様にお仕えしております」
「二心なく」
「そういうことじゃ。仕えるに値しなければ」
信秀はここでまた言った。
「誰も仕えぬわ」
「さすれば信長様は」
「うつけではありませんな」
「左様、
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