第四十八話 市の婿その十二
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「御言葉の意味が判りませんが」
「ははは、いずれおわかりになられます」
「いずれですか」
「何はともあれ」
「何はともあれ?」
「近江はいいところでございますな」
その猿面を破顔させたままの言葉だった。
「それも実に」
「それはわかりますが」
「とにかく。それではです」
木下の調子で話を進めてであった。
「近江を見て尾張に戻り」
「そのうえで、ですね」
「話をしかと決めましょうぞ」
こんなことを話してだ。市は近江を見回りだ。そのうえで尾張に戻って兄に対してだ。笑顔で話すのだった。
「近江はとてもよいところです」
「気に入ったか」
「はい、とても」
笑顔でこう話すのである。
「田畑も町もです」
「整っておるな」
「賑やかなものでした」
「ならばよい」
信長もだ。笑顔で市に応えた。
「御主は浅井に嫁に行け」
「はい、わかりました」
「さてさて、浅井長政は果報者じゃ」
その笑顔のままでだ。こんなことも言う信長だった。
「これだけのおなごを嫁にするからのう。いや」
「いや?」
「むしろ市が幸せか」
「私がですか」
「そうじゃ。あの者は間違いなく出来者じゃ」
そうだというのだ。
「その者を夫にするのじゃからな」
「そう仰って頂けますか」
「これがあの朝倉義景ならば」
どうするかというのだ。何気に織田と朝倉の中の悪さも話に出す。
「絶対に嫁にやらん」
「朝倉殿には」
「あの様な鈍い者はやがて国を滅ぼす」
「そうなりますか」
「動くべき時に動かず都の文化で遊んでおるだけじゃ」
「都の文化といえば」
「ああ、今川とはまた違う」
同じく都の文化に耽溺していてもだ。そこは大きく違うものがあるというのだ。
「今川は節度を持って遊んでおったが」
「朝倉殿は」
「溺れておるのじゃ」
「溺れているのですか」
「何でも溺れては駄目じゃ」
信長の言葉がやや強いものになる。
「そこは弁えねばな」
「駄目なのですね」
「そういうことじゃ。では市」
あらためてだ。妹に話す。
「後は権六が話をまとめてくれる」
「そうして私は」
「晴れて浅井の家に入る」
そうなるというのだ。
「後は浅井の家でじゃ」
「はい、あの家の妻になります」
「そうせよ。しかし御主は」
妹を見てだ。そのうえでの言葉だった。
「わしに最も似ておるかのう」
「兄上に」
「弟達や妹達の中でもじゃ」
自身にだ。最も似ているというのだ。
「気質や勘は似ておるか」
「まさか。それは」
「いや、やはりそうじゃろう」
似ていると言うのだ。市と自分は。
そう話してだ。さらにだった。
信長は市にだ。このことを問うた。
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