第四十八話 市の婿その十
[8]前話 [2]次話
「その馬をはたかれたとなれば」
「武士の顔もはたかれたも同じと」
「それでどうして許せようか」
こう言うのである。
「違うか、それは」
「うむ、それはわかった」
彼はだ。武者の言葉を一旦受けて応える。
「それはな」
「ではそこから離れられよ」
「しかしそうもいかん」
「離れぬというのか」
「少なくとも今はな」
彼の返事が強いものになっていく。その彼を見てだ。
木下は足を止めてだ。こう市に言うのだった。
「あの騒ぎを止めている若い武者ですか」
「あの方ですね」
「よく御覧になって下さい」
こう言うのである。
「宜しいでしょうか」
「よくですか」
「大層な者です。流石ですな」
「流石とは?」
市は今の木下の言葉にだ。すぐに問い返した。
「木下様はあの方を御存知なのでしょうか」
「あっ、いや」
己の言葉に気付いてだ。咄嗟にだ。
木下は己の言葉を打ち消してだ。市にあらためて話した。
「どうやらこれで、です」
「これで?」
「この騒ぎは終わります」
そうなるというのである。
「血は流れませぬ」
「そうなればいいのですか」
「まあ見ていて下され」
木下は確信している口調でだ。市に述べた。
そしてそのうえでだ。足を止めてじっとだ。目の前のやり取りを見るのだった。
喧嘩を止める若い男はだ。武者にまた言っていた。
「どうだろうか。ここは」
「だからできぬ」
武者の言葉も変わらない。頑迷ですらある、
「この者、どうしても」
「手打ちにするというのか」
「左様、わかったらどかれよ」
男に対して強い声で告げる。
「貴殿には関わりのないことの筈だ」
「いや、そうはならぬ」
「関わりがあるというのか、この年寄りと」
「あると言えばある」
はっきりと言わずにだ。そうだというのだ。
「それはな」
「よくわからぬことを言うのう」
「とにかくじゃ」
また、だ。彼は言うのであった。
「ここはじゃ。何とかじゃ」
「退かぬと言えば?」
「ふん、切るまでよ」
その通りだと言ってだ。武者は。
刀を両手で構えなおしてだ。そのうえで男に言うのだった。
「さあ、わかったらじゃ」
「どけというのだな」
「そうじゃ。そうせよ」
男に対しても言うのだった。
「よいな」
「いや、それはせぬ」
どかぬとだ。男も言った。
「御老人を救わなければならぬからな」
「ぬう、何としてもそう言うのか」
「わかったなら下がるのじゃ」
また言う男だった。
[8]前話 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ