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戦国異伝
第四十八話 市の婿その四

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「だからいいですわ」
「私がいるから?」
「市様の様な奇麗な方が一緒だと。いや、奇麗なのはうちのもですが」 
 何だかんだ言ってだ。ねねのことは決して忘れないのだった。
「しかし。市様もそれはそれは」
「私が奇麗ですか」
「それは鏡を御覧になられれば」
 それでわかるというのである。
「よくおわかりかと」
「そうなのですか?」
「まあわしにはねねがいます」
 あくまでねねが第一の木下だった。
「ですが。長政様も別嬪な方を嫁に迎えられますな」
「その長政様ですけれど」
 市が尋ねるのは彼のことだった。
「果たしてどういう方かですね」
「それを見極められる為にですね」
「あえて御自身が近江に行かれるのですね」
「はい。果たして織田が手を組むに足りる方か」
 市の目がやや強いものになる。
「それを見る為に」
「そしてそれに足りる方ならば」
 木下はここでまた言った。
「市様の夫にも足りますな」
「そうなりますか」
「はい、ただ定規は大きいですぞ」
 木下の顔はやや真剣なものになる。
「それは確かです」
「大きいですか」
「我が織田も信用できる者と手を結びます」
 それは絶対だというのである。
「ですから」
「まずは信ですか」
「はい、そしてです」
 さらにであった。
「その資質もです」
「戦と政ですね」
「大体国を見ればわかります」
 その国をだ。見ればというのだ。
「政はどうなのか」
「それがそのまま出るからですね」
「左様です」
 まさにそうだと答える木下だった。
「政ははっきりと出ます」
「国に」
「尾張がそうです」
「私達の国がですか」
「殿の政がよいからこそ」
 この言葉はゴマすりではない。木下の本心からの言葉だ。
 その本心の言葉をだ。市に見せるのである。
「ああして豊かになっているのです」
「では。近江の北もまた」
「同じです」
 木下はまた言った。
「どの国もそれは同じです」
「では田畑や町や堤を見ればですね」
「おおよそのことはわかります」
「では近江では」
「よく御覧下さい」
「そうしてですね」
 市もだ。納得した顔で木下に応える。
「決めよと」
「左様です。近江は元々豊かですが」
「それに加えて」
「さらに豊かになっていればよしです」
 逆に言えば貧しくなっていれば駄目だというのだ。木下の言葉は一面において厳しいものもあった。それを含んでの市への言葉なのだ。
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