第四十八話 市の婿その三
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「そうした方もおられるのですね」
「小さいが随分と頭の回る奴でじゃ」
「頭がですか」
「まあ力はない」
それは駄目だというのだ。力とかそうしたことについてはだ。
「ついでに言えば馬に乗るのも下手じゃ」
「それで兄上の家臣の方ですか」
「確かに武芸は駄目じゃが頭はよい」
「左様ですか」
「色々と機転が利く。中々頼りになる者じゃ」
こう市に話す。
「それを連れて行け」
「はい、それでは」
「少なくとも権六よりは目立たぬ」
「権六様はまた目立ち過ぎですし」
「それを言うな。言うと出て来るぞ」
信長が笑いながら言うとだ。早速だった。
その柴田が部屋に入って来てだ。こう信長に話すのだった。
「殿、それでなのですが」
「おお、言った傍から」
「来られるとは」
「またわしのことを言っていたのでござるな」
そのことを察してだ。柴田は困った顔になって信長だけでなく市にも話した。
「どうせ顔が怖いだの鬼だの」
「そこまでは言っておらんがな」
「まあそこは」
「やれやれ。全くわしは色々言われますな」
「御主は目立つからじゃ」
一応彼自身にもこのことを話す。
「どうしても話に出るのじゃ」
「そういうことですか」
「そうじゃ。ところでじゃ」
信長はここで話を変えた。その話は。
「近江のことじゃが」
「はい、今度あの国に向かいます」
「美濃は通れぬ。伊賀から行くとよい」
道についても言う信長だった。
「そうじゃ。久助も同行させるとしよう」
「あの辺りの道に詳しいからでございますな」
「そうする。久助は交渉もできるしな」
「ですな。あの者戦だけではありませぬ」
「政もできる。頼りになる奴じゃ」
織田の家臣は大抵戦だけでなく政にも長けている。慶次や可児といった極端な武辺者以外はそちらにも長けているのである。
そのことを踏まえてだ。信長は話すのだった。
「では二人でじゃ」
「はい、行って参ります」
こうしてだ。柴田は滝川と共に近江で浅井と婚姻の話をまとめることになった。この話はかなり順調に進みはした。しかしそれだけではなかった。
尾張から近江に向かう一団がいた。その戦闘にいるのは。
木下だった。その彼がここでこう言うのだった。
「いや、近江とはのう」
「木下殿が行かれるのははじめてでしたね」
「確か」
「うむ、近江ははじめてじゃ」
実際にそうだと話す木下だった。
「近江の北はな」
「六角殿の治めておられる場所は通られましたな」
「そこは」
「殿が都に上られた時にな」
その時にだというのだ。しかし北の浅井の治める場所はどうかというとだ。
「しかし。北はじゃ」
「やはりありませんな」
「左様ですな」
「うむ。果たしてどうした場所かのう」
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