第四十八話 市の婿その一
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第四十八話 市の婿
信長は妹である市を前にしてだ。こう問うていた。
「御主はどういった者が好きじゃ」
「それは殿方のことでしょうか」
「そうじゃ。どういった男が好きじゃ」
このことをだ。市に直接尋ねるのだった。
「言うてみよ。どうした者が好きじゃ」
「強い方でしょうか」
「強い者とな」
「はい、兄上を前にしても臆することのない様な」
そうした者をだ。市は好きだというのである。
「例え対峙しても一歩も引かぬ様なです」
「しかし退かねばならぬ時もあるぞ」
「その時も怯えてではなく悠然としてです」
「わしに対してか」
「退ける様な方です」
まさにだ。そうだというのである。
「そうした方ならばです」
「言うのう。そうした者か」
「そうした方ならばです」
是非にとだ。市は微笑んで言うのであった。
「私も嫁に入りたいです」
「ほほう。そう言うか」
市が笑顔で言うとだ。信長もだ。
にこやかに笑いだ。こう妹に話した。
「気付いておったか」
「少しは」
「少しでも気付くことは大きい」
それ自体がだと。信長は妹に話す。
「実にな。ではじゃ」
「近江ですね」
「そこの浅井長政の嫁に入るか」
市の目を見て問う。その目は真剣だ。
「そうするか」
「その前にです」
ここでだ。市は兄にこう言ってきた。
「御願いしたいことがあるのですが」
「その長政を知りたいか」
「はい。果たして兄上が共におられるのに相応しい方かどうか」
「そして御主の夫に相応しい者か」
「見たいと思いますが」
「それでこそわしの妹じゃ」
それでいいというのである。信長はその顔を笑みに戻して答えた。
「まず相手を知ってからじゃな」
「見極めてからです」
「そのうえで嫁に入るか」
「そうして宜しいでしょうか」
「うむ、よい」
信長は妹のその言葉をよしとした。そしてそのうえでだ。
彼女にだ。こんなことも言った。
「ではまずはじゃ」
「長政様のその評判を知りたいのですが」
「悪くはない」
まずはこう言う信長だった。
「二倍の六角を自ら先陣に立って防いだことがある」
「勇敢な方なのですね」
「しかも戦上手じゃ」
「戦にお強いのですか」
「そして。まああの大人しめの父親の助けもあるが」
ここで彼の父親の話も出た。
「政もよくやっておるな」
「近江の北をよく治めておられますか」
「近江は琵琶湖があり元々豊かじゃが」
「それにさらにですね」
「近江をさらに豊かにしておる」
まさにだ。そうしているというのだ。
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