第四十七話 伊勢併呑その二
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「鍛錬になるものがじゃな」
「ですな。それを考えますとあの御仁はです」
「酒で乱れず身体を動かすことを好まれる」
「そうした方でございますか」
「如何にも酒を飲まれそうですが」
一人が先入観から話す。信長のうつけという噂からだ。さぞかし大酒を飲むかと思っていたのだ。だがその見方は裏切られたのである。
雪斎はだ。信長と酒についてこう彼等に話した。
「いささか話には聞いていたが」
「織田殿が酒を飲まれぬこと」
「そのことをでございますか」
「うむ。聞いてはおった」
そのことを今考えている顔で話すのだ。
「しかし。あそこまでとはのう」
「全く飲まれませんな」
「茶を飲み書を読まれます」
「それもかなりの量の書を」
「やはりうつけ殿ではない」
雪斎は今では確信していた。
「むしろじゃ」
「かなりの方ですか」
「やはり」
「そう思う。しかしじゃ」
それでもだとだ。ここで雪斎は言葉を変えてきた。
「まだじゃな」
「左様ですな。決めるのはまだです」
「これからです」
「織田殿はまだ尾張一国じゃ」
これが現実だった。信長はまだ尾張一国に過ぎない。しかも桶狭間で勝ってからこれといって動いていないのだ。これではだった。
「それで。決めるのはじゃ」
「早計ですな」
「もう少し見てから」
「まあ伊勢じゃな」
雪斎の目が光ってだ。その国だというのだ。
「あの国をどうするかじゃ」
「伊勢を手中に収めればですか」
「かなりのものでございますが」
「兵で取ろうと思えば時間がかかる」
雪斎はこの現実を述べた。伊勢は広く多くの国人に別れている。それでは手中に収めるのに時間がかかるのも一目瞭然のことなのだ。
そのことを述べだ。さらにだった。
「手間取っていては斉藤も動く」
「織田殿にとってはまさに仇敵のあの家も」
「油断なりませんな」
「しかし。近頃」
その斉藤がだ。どうかというのだ。
「動きがありませんな」
「左様、当主の義龍殿が病と聞いていますが」
「かなり重い病なのか」
「そうなのか」
「おそらく」
雪斎がまた言う。その目の光を強くさせて。
「義龍殿は死に至る病であろう」
「死病でござるか」
「その病ですか」
「そうじゃ。それ故にじゃ」
斉藤は動けぬというのだ。肝心の主の病故にだ。
「そうなっておるのじゃろう」
「織田殿はそれを承知なのでしょうか」
「斉藤のことを」
「承知しておられるだろうな」
雪斎はそのことも察して言った。
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