第四十六話 寿桂尼その十一
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「そして様々な出自の者がおる」
「この国の者だけではないですか」
「尾張者だけでは」
「伊勢や美濃、果ては百姓だった者もおるな」
「そして傾奇者も」
「雑多な者達が」
「雑多でも優れた者なら誰でも取り立てる」
これは今川にはないことだった。名門であるが故に家臣達はある程度定まってしまっていたのだ。このことは今更ながら気付いたことである。
「そうした家じゃな」
「では我等も働けばですか」
「織田において厚遇される」
「そうだというのですか」
「うむ、そうなるであろう」
義元はここでも確かな声だった。その声で告げたのである。
「安心せよ。織田におれば悪くはならぬ」
「だからこそ。織田に」
「この尾張に」
「何度も言うがよく考えるてじゃ」
このことを言うのは忘れない。しかしこれでおおよそのことは話されたのだった。
義元は家臣達に話し終えた。そして次は嫡子である氏真に顔を向けて問うのだった。
「御主はどうする」
「これからのことですな」
「そうじゃ。まさか駿河に戻るとは言うまい」
「ははは、それはありませぬ」
氏真自身もだ。そのことについては笑ってないと述べた。
「今更。それは」
「ではどうするのじゃ」
「そうですな。三河に行きますか」
「三河にか」
「室と共に竹千代のところに行きます」
正室と共にだ。そうするというのである。
「そしてそこで蹴鞠に和歌等して過ごします」
「そうするというのじゃな」
「最早駿河も遠江も失いましたし」
それならばだというのだ。氏真は随分と割り切っていた。
「さすればです」
「左様か。そなたはそれでよいのじゃな」
「はい。何の未練も思うところもありません」
「まあ竹千代もそなたを邪険にはせん」
氏真と元康はそれこそお互いに幼い頃からの付き合いだ。氏真は人質に来た元康を何かにつけ可愛がっていたのだ。氏真は少なくとも心根の悪い男ではない。
だからだ。義元も今こう言うのであった。
「では三河に行くがいい」
「はっ、それでは」
「では麿はじゃ」
義元自身はどうするか。このことをあらためて話すのだった。
「髪を剃り僧侶に戻るか」
「では殿もまた」
「都に上りそこで暮らす」
無論だ。僧侶としてである。
「織田殿にもそう言っておこう」
「ではもう二度と」
「還俗もせぬ」
俗世に戻ることもだ。ないというのだ。
「そういうことじゃ」
「御決意はやはり」
「もう決めた」
彼自身のことについてもだ。迷いなく言うのだった。
「その様にな」
「わかり申した。それでは」
「殿、お元気で」
「達者でな」
話はだ。何時しか別れのやり取りになっていた。
そうした話をしてだ。遂にであった。
義元は再び出家して都に
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