第四十六話 寿桂尼その十
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「今更武田殿のところに参るのも」
「それに元々あの家の水は合わぬと思いましたから」
「だからこそです」
「ではじゃ。尚更じゃ」
彼等がそう言うのを聞いてだ。また告げる義元だった。
「織田を見極めるのじゃ」
「ううむ。傾奇者をですな」
「あの御仁を」
「少なくとも麿を破っておるぞ」
海道一の弓取りと言われた彼をというのだ。
「やはりそれなりの資質はあろう」
「拙僧はそう思います」
雪斎はこう言って信長の資質について言及した。
「ただ。それでもです」
「和上は織田にどれだけのものを求めておるのじゃ?」
「あの御仁何かと天下を言います」
雪斎がここで言及するのはこのことだった。信長が常に天下を見てそのことを語っていることは彼の耳にも入っている。さすればというのだ。
「それならばです」
「天下を手に入れ治められる程の者かどうかか」
「それができるならばです」
仕える。こう言うのである。
「拙僧、殿の御言葉通りに致します」
「左様か。流石和上じゃ」
雪斎のその確かな言葉を聞いてだ。義元は思わず唸った。
そしてそのうえで他の家臣だった者達を見回しだ。彼等にも問うのだった。
「して御主達はどうするのじゃ」
「我等は雪斎殿と同じです」
「左様です」
つまりだ。雪斎の目に頼るというのである。
「雪斎殿の御目に狂いはありませぬ」
「さすればです」
「その目に従わさせてもらいます」
「そうじゃな。それがよいな」
義元もだ。彼等の雪斎の目を信じることをよしとした。
「和上の目ならば問題はないからのう」
「有り難き御言葉」
「では和上」
あらためて雪斎に告げる。
「織田信長、よく見ることじゃ」
「はっ、さすれば」
「しかし。天下を目指すか」
義元は信長がそう考えていると聞いてだ。そのうえで腕を組み考える顔になりだ。こう述べたのだった。
「前ならばおおうつけと笑っておったが」
「今は違いますか」
「それも」
「うむ、笑えなくなったわ」
しみじみとした口調になっている。信長のことを知りだしてだ。
「麿は見誤っておったな」
「織田信長という男」
「あの御仁を」
「うつけではなかった」
悔恨の言葉だった。
「そしてじゃ。その言葉もじゃ」
「天下を狙うというですか」
「その言葉もまた」
「おそらく身の程知らずなものではあるまい」
そのこともだ。わかってきたといった言葉だった。
「だからじゃ。麿は思う」
「我等が織田の家臣になると」
「うむ。そうな」
そしてだ。さらに話すことは。
「そして。織田も御主等を粗末に扱うまい」
「外様でしかもかつて敵であった我等をですか」
「粗末に扱わないと」
「そう思われますか」
「織田の家臣は多い」
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