第五話 初陣その四
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「殿、何故ここで合流されないのですか」
「柴田殿の軍と」
林兄弟が主に対して問う。
「右に迂回されていますが」
「これは一体」
彼等は今盆地の中に入ろうとしていた。敵の主力はそこにいるのだ。だが信長はその盆地にすぐに入らずにだ。まずは右に迂回したのである。
「何を御考えですか」
「ここでは」
「鉄砲だ」
信長はそれだというのだった。
「鉄砲を使うぞ」
「鉄砲を」
「ここで、なのですか」
「そうだ、使う」
信長はまた林兄弟に答えた。
「敵の側面を撃て、よいな」
「成程、そうされるのですか」
森がそれを聞いて納得した顔で頷いた。
「その鉄砲で敵を倒し音で驚かせ」
「そうだ、鉄砲は敵を倒すだけではない」
信長は鉄砲のことをわかっていた。だからこその言葉だった。
「音も使える。いきなりあの轟音を聞けばじゃ」
「左様ですな」
「そうすれば」
「敵は臆する」
「そこを」
「そうだ、一気に突っ込む」
こう加神達に話す。
「前から攻める権六達とは別に横から攻める。そうするぞ」
「畏まりました」
「それでは」
織田軍の主力は迂回を続ける。敵はそれに気付くことはなかった。山の木々に軍が隠れていたからだ。そしてそれだけではなかった。
「かかれ、かかれ!」
「はっ!」
「このままですね!」
「そうだ、かかれ!」
柴田がだ。激しい攻撃を敵に対して浴びせ続けていた。その激しさはまさに炎の如くであった。
「我等だけで倒してしまえ、よいな!」
「はっ、それでは!」
「我等だけで!」
「殿の御手をわずらわせることはない」
こうまで言う柴田だった。実際に彼の軍は少数ながら今川の兵を押してさえいた。
「我等だけでだ」
「はい、勝ちましょう」
「我等だけで」
「それはできます」
「そうだ、できる」
その確信があった。
「わしだけではないからな」
「滝川様もまた」
「見事です」
「久助、忍の出なのは知っていた」
もうこのことは信長の配下で知らない者はいなかった。
「しかし。それと共にだ」
「戦も見事ですな」
「充分以上に戦っておられます」
柴田に仕える者達が言ってきた。彼等もまた果敢に戦っている。
「まさか戦の場でもあそこまでされるとは」
「お見事です」
「全くだ。見事という他ない」
柴田はその滝川の戦いを見ていた。彼は自ら采配を執り果敢に攻撃を繰り返していた。その剣でもかなりの敵を倒している。
「殿が先陣に選んだだけはある」
「そうですな、ということはです」
「やはり我等の殿は」
「恐ろしい方よのう」
柴田は不敵に笑ってこう言った。
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