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戦国異伝
第四十六話 寿桂尼その八

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 だからこそだ。彼は言うのだった。
「あの様な者達はまことに」
「ですが殿」
「それでもじゃな」
「はい、そのせいで」
「織田を見誤っておったか」
「外見だけではありませんでした」
 今川では雪斎だけが気付いていたことだ。今となっては言っても遅いがだ。
「まことの力を持っているのかも知れませぬ」
「そういえば尾張じゃが」
 氏真もここで言うのだった。
「実によく治められておるのう」
「清洲に来るまで見てきました」
「田畑も町も」
 他の家臣達もここで話す。
「どれも見事です」
「百姓達も町人達も明るく過ごしております」
「しかも人の行き交いも多いです」
 何から何までだ、充実しているというのである。
「堤も道も整っておりますし」
「これが尾張ですか」
「尾張の治でしょうか」
「正直なところじゃ」
 また話す義元だった。
「駿河よりもよく治められておるわ」
「確かに。あの駿河よりもです」
「この尾張は治められています」
「まことに見事です」
「ここまでとは」
「戦よりも政じゃ」
 義元もだ。こうした考えだった。彼は戦よりも政の方を得手としている。その彼が見てもだ。信長の政はどうかというのである。
「ううむ。織田信長という男」
「かなりの男ですか」
「うつけではありませんか」
「最早麿は国の主ではない」
 そしてだ。義元は今度はこう言うのであった。
「虜になっておる。さすればじゃ」
「さすればですか」
「どうされるというのでしょうか」
「出家する」
 そうするというのだった。
「元々僧じゃった。昔に戻るとするか」
「では我等は」
「どうせよと」
「最早仕える家はないのじゃ」
 そのだ。今川家はだというのだ。
「では。わかるな」
「織田に仕えよと」
「そう仰るのですか」
「御主等が選ぶのじゃ」
 決断はだ。彼等に任せるというのだ。
「その場合はな」
「我等が織田を認めればですか」
「そうせよというのですか」
「織田に仕えよと」
「そうなのですね」
「うむ、選ぶがいい」
 義元はまた告げた。
「御主等がな」
「殿、では」
 雪斎が真摯な顔で義元に問う。
「我等に新しい主の下で」
「生きるのじゃ。御主等が浪人になり路頭に迷うのを見たくはない」
 義元の本音だった。偽らざる。
「碌を育み。戦に政に生きるのじゃ」
「国を失くした我等にそう言って頂けるのですか」
「国を失くしたのは麿じゃ」
 雪斎達ではない。こうも告げるのだった。
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