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戦国異伝
第四十六話 寿桂尼その六
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「それは約束しよう」
「その言葉信じて宜しいのですね」
「わしも言ったことは守る」
 この場合はだ。信長にも意地がある。だからこそだ。
「それは何があろうともせぬ」
「ですか」
「うむ。して」
「私がどうするのか」
「貴殿の好きな様にされよ」
 あくまで彼女自身に任せるというのだ。しかしだ。
 信長はこう言ったうえでだ。再び寿桂尼に話した。
「しかし貴殿が尾張に住まわれるなら」
「その場合は」
「住む場所を用意してある」
 まずはこれであった。住からだった。
「尼寺を。貴殿に相応しい場所を」
「その寺に入られよと」
「尾張に入るなら」
 それならばだとだ。やはり信長は寿桂尼にその決断を委ねていた。そのことについてだ。信長はあえて何も言わないというのである。
 信長の言葉と考えを聞いてそのうえで、であった。寿桂尼は一旦雪斎に顔を向けた。そうして彼に対して尋ねたのである。
「ここはどうするべきだと思いますか」
「尾張に留まられるか若しくは」
「他の国に行くべきか」
「他の国に行くならばです」
 まずはその場合から話す雪斎だった。
「都が宜しいでしょう」
「京の都ですか」
「はい、寿桂尼様の御実家もありますし」
 彼女は元々公卿の家の娘だ。その家から今川の力を頼りに縁組を勧められそのうえで今川に嫁ぎ今に至るというわけなのだ。
 その彼女が実家に戻るのなら道理が通るというのである。雪斎はまずはそこから話すのだった。
 そしてさらにだ。雪斎はこうも話した。
「ただ」
「都のことですね」
「そうです。やはり今の都は」
「危ういですね」
「ですから」
 都は進められない。これが雪斎の考えだった。
 そのうえでだ。雪斎はさらに話すのだった。
「かといっても他の国もです」
「勧めないというのですね」
「そうです。相模もありますが」
 盟友北条の国だ。その国もあるにはあるというのだ。
「ですが。どうも北条もです」
「私が行こうともですか」
「厄介になるしかないでしょう」
 北条家にとってだ。そうでしかなくなるというのだ。
「どうも。拙僧には勧められません」
「厄介になるだけならば」
「拙僧は寿桂様には安楽に」
 最初の願いはそれだった。
「かつ幸せに過ごして頂きたいのです」
「厄介になるだけならば」
「それは決して幸せではありません」
「だからですか」
「はい、それに相模よりもです」
 その北条よりもと前置きしてからだ。雪斎が言う相手は。
「やはりです」
「織田殿ですね」
「そうです。織田殿です」
 今彼等がいてそして目の前にいるだ。その相手だというのである。
「織田殿の好意を受けるのが最もよいかと」
「それはやはり」
「義元様と氏真様がおられます」

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