第四十六話 寿桂尼その四
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「ですがそれでもです」
「言わずにはおれぬか?」
「はい。それで何を話されるおつもりですか」
「何、あれじゃ」
「あれとは?」
「窮鳥が懐に入ればじゃ」
信長は茶を飲みながら話すのだった。無論信行もそうしている。二人で茶を飲みながらだ。そのうえで寿桂尼の話をするのだった。
「そうなればじゃ」
「救わずにはいられないというのですか」
「それもある」
「それだけではないともいうのですね」
信行は兄の言葉に即座に問い返した。
「左様ですね」
「言うのが早いのう」
「何となくわかりましたので」
信行も兄であり主である彼に返す。
「ですから」
「御主勘はよくなかったがのう」
「兄上に鍛えられました故」
「そう来たか」
「はい。とにかくです」
「うむ、その窮鳥使わせてもらおう」
政としてもだ。信長は話すのだった。
「あちらと話をしてから決めるが」
「しかし腹はおおよそ決められていますか」
「そうしておる」
信長は茶を飲みながら話す。
「しかしそれを確かにするのはじゃ」
「まだですか」
「うむ、それはあくまで話し合いからじゃ」
それからだというのである。それはあくまでなのだった。
「そこから確かにする」
「わかり申した。それでは」
「上手くいけば東の心配がなくなるだけでなくじゃ」
「他にもですか」
「頼りになる者達がわしの家臣になる」
楽しげな笑みになる。その笑みで弟に話すのである。
「あくまで上手くいけばじゃがな」
「上手くですか」
「わしは尾張一国では満足しておらぬ」
信行にだ。この場でもこう語るのだった。
「天下じゃ」
「あくまでそれを目指されますか」
「目指す。そしてじゃ」
「治められますな」
「天下を何の為に手に入れるか」
「天下も万人も無事に治める為」
信長の目指すものはもうわかっていた。信行も伊達に長い間彼の弟として傍にいる訳ではない。さすればわかることであるのだ。
そのわかることをだ。信長にあえて話すのだった。
「その為に」
「その通りじゃ。確かにわしには野心がある」
野心があることもだ。彼は隠さなかった。
「しかしそれでもじゃ」
「それでも。その野心は」
「野心といっても色々じゃ。様々な野心がある」
「そうですな。兄上の野心は」
「天下を無事に治める野心よ」
不敵な、それでいて涼やかな笑みだ。その笑みで茶を前にして話すのである。
「その野心よ」
「そうなりますな」
「そしてその野心の為にじゃ」
茶には今は手を付けず。弟に話す。
「勘十郎、そなたも」
「はい」
「他の者達もじゃ。力を貸してもらうぞ」
「及ばずながら」
「わしは弟達も多い」
妹達もだ。彼の弟達や妹達はかなりの数になるのだ。
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