第88話 立つ鳥跡を濁す
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さながら、缶詰になった作家の心境です。
私が執筆地獄に気が滅入りそうになって、揚羽に休憩を願いでようとしたとき、誰かが執務室の扉を開いて入って来ました。
「正宗様、大変です。冀州入りしていた督郵が正宗様に面会を求めてきています」
美里が大慌てで言いました。
「何故、督郵が私に用があるのだ。その督郵の名前は何という」
私は気怠さを我慢して、美里に言いました。
「督郵の名前は許攸です。それに・・・・・・顔に酷い怪我をなさっています」
「許攸だと・・・・・・」
何で、許攸が冀州に督郵として赴任しているんです。
私が麗羽の夫だから胡麻をすりにしたのでしょうか。
「正宗様、その者は督郵の権威を傘に冀州の官吏より賄賂を徴収しております。正宗様の影響下の郡でも堂々と賄賂を要求しておりました。もちろん、正宗様の御名に傷がつかぬように要求は拒否させています。督郵の顔の怪我は何とも言えません」
「苦情を言いに来たという訳か?」
私は図々しい許攸の対応にうんざりな気分になりました。
「とにかく許攸に会うことにする。美里、許攸を謁見の間に通せ。揚羽と冥琳も同席してくれ」
冀州に来た督郵が私の元に来たことに、桃香の件で来たのではないか思いました。
「督郵、面を上げよ。私の元を訪ねるとは何か用なのか」
平伏する許攸は右腕に包帯を巻き、痛々しいものでした。
「私は今回、督郵を任じられた許攸と申します。劉車騎将軍につかれましては、ご面会の機会をいただき恐縮に存じます」
平伏していた許攸は顔を上げ、拱手をして挨拶をしました。
私は彼女の青あざだらけの顔を見て驚きました。
「その傷はどうしたのだ? 随分と手酷くやられたようだが」
私は表向き彼女を心配するように言いました。
なんとなく想像がついてきました。
多分、安喜県にはもう桃香達はいないでしょう。
「劉車騎将軍は劉玄徳を知っていらいますでしょうか? 私が中山郡安喜県へ監察に赴いた際、その者の配下に半殺しにされまして・・・・・・」
許攸は私と目を反らし、辛そうな表情をしました。
「それは不幸なことだな。私の元に来たのは、劉玄徳を推挙した私の責任を問うためという訳か?」
私は許攸の腹づもりが分かりましたが、冷静に言いました。
「滅相もございません。私は名声高き劉車騎将軍の御名を汚した不届き者のことをご報告に参った次第です」
許攸は私に態とらしい態度でうやうやしく言いました。
桃香の件を黙っておく代わりに、口止め料が欲しいのでしょう。
その手に乗るつもりはありません。
この女は既に賄賂を要求するという罪を犯しています。
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