第九話 戦いの意義その十
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「ですがそれでもです」
「金や恋人は欲しいか」
「特に恋人は」
「君は今は独り身か」
「完全に。何年か前に別れたきりで」
「そしてそのまま一人か」
「はい、そうです」
彼女はいないというのだ。そうだというのだ。
「別れた理由はよくある話で転勤で」
「転勤のせいか」
「横須賀から大湊に転勤になりまして」
青森にある。海上自衛隊の五つの主要な基地のうちの一つだ。そこに艦隊を置いているのだ。場所柄北方の防衛にあたることが常だ。
「その時にです」
「別れてか」
「彼女の仕事は普通の眼鏡店の店員でして」
地元のだ。それだったというのだ。
「そこから離れられなくて」
「それで別れたのか」
「はい、残念ですが」
「その前に結婚して単身赴任となればよかったな」
「そうかも知れないですね。ですが」
「今それを言ってもか」
「はじまりませんし」
それでだと。工藤は言い。
「今は彼女を探しています」
「そうしているのか」
「誰かいればいいんですが。一佐は誰かいい娘を御存知ですか?」
「探しておこう」
一佐は工藤のその言葉にだ。少し頷いてこう述べた。
「君にとってもそうした相手がいるべきだからな」
「すいません」
「礼はいい」
それはいいというのだった。
「問題は君がそうした相手に巡り会えてだ」
「結婚ですね」
「それができればいい」
こう話してからだ。一佐は。
少し微笑んでだ。こんなことも言った。
「しかしな」
「しかし?」
「私は陸自で君は海自で」
「陸軍と海軍ですね」
「その陸軍と海軍がこうして上司と部下でしかも親しく話せるとはな」
このことを思いだ。一佐は微笑んだのだ。
そして何故微笑んだのかもだ。彼は自分の口で述べた。
「昔ならとてもな」
「昭和前期の陸軍と海軍ですね」
「あの頃は違っていたからな」
「陸軍と海軍といえばそれそこ」
「仇敵同士だった」
ヒトラーが見ても呆れる程だった。とかく陸軍と海軍は仲が悪かったのだ。
これは日本だけでなく他の国でも同じあった。そのことについてもだ。
一佐はだ。こう言うのだった。
「意味がなかった」
「このこともでしたね」
「その無意味な対立が消えたのはいいことだな」
「はい。一佐の同期もでしたね」
「私のか」
「海自の方がおられますね」
「当然だ。海自だけではない」
もう一つの自衛隊についても話される。
「空自にもいる」
「だからですか」
「仲はいい」
同じ自衛隊同士のだというのだ。
「それは君もわかっていると思うが」
「そうですね。私も別に」
工藤自身もだ。こう言うのだった。
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