第四十三話 清洲に帰りその十三
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「全く。どういうことじゃ」
「他の者達がまたおかしいのでござる」
平手はこう言うのであった。
「あの権六や新五郎もでしたから」
「あの二人はもう既にわかっておったからのう」
「殿のそうしたところがですか」
「そうじゃ。あの二人にしろ他の者もわしから離れることはないと思っておった」
そのことは確信してだ。それでああしたというのである。
「読み通りじゃったな」
「それがしが腹を切るのは」
「まあそれもな。実際に考えておったか」
「左様でございます」
「全く。爺は真面目過ぎるわ」
これが信長の平手への言葉であり考えであった。
「もう少し遊び心が欲しいのう」
「それは茶に向けておりますので」
「茶か」
「和歌や能にも」
「そうしたものも確かによいがのう」
「それにです。それがしが小言を言わねばどう思われますか」
「病かと思うぞ」
そうなればそうなったで、だった。まさにだ。
「そんな爺なぞ爺ではない」
「そういうことですな」
「わしにだけ言うのではないしのう」
「ははは、特に慶次にはですな」
笑いながらだ。その男はというのだ。
「あのやんちゃ小僧は放ってはおけませぬ」
「あ奴には容赦なく殴るな」
「あの者は殴らなくてはわかりませぬ」
そうした男だというのだ。慶次はだ。
「もっとも。殴ったところで」
「傾くのを止める者ではないぞ」
「あれは織田家きっての悪童です」
平手から見ればだ。慶次まさにそれだった。永遠の悪童なのだ。
「甘い顔をしてはなりませぬ」
「若し甘い顔をすれば」
「氷風呂です」
実際に平手は彼に氷風呂に入れられたことがある。他にも様々な悪戯を受けている。そしてその度に彼を容赦なく叱り殴っているのだ。
「ああした者ですから」
「しかしその慶次は嫌いではないな」
「嫌いではありませぬ」
そのことははっきりと言い切った。言い切れた。
「困った者ですが」
「それでもじゃな」
「どうにも憎めませぬ」
そうだというのだ。
「それは確かでございます」
「そうじゃな。むしろ爺は今の織田に嫌いな者はおるか」
「これはといっておりませぬ」
「そうじゃな。わしは人柄まで見てはおらんがじゃ」
「それでもでございますか」
「流石に極端に心根の悪い奴は用いぬ」
それはしないというのだ。
「世の中にはどの様な悪さをしても全く平気な奴もおる」
「どの様な嘘をついても」
「そうした奴は能力以前の問題じゃ」
「人としても信用できませぬか」
「論外じゃ」
こうまで言うのである。
「使えぬわ。絶対にな」
「若し使えば」
「必ず災いとなるわ」
断言であった。そうならない筈がないというのだ。
「それを考えると心根も大事じゃな」
「はい。
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