第七話 中田の言葉その三
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「あの人は」
「むしろ正しい心を持っておられます」
「だからあの時退いてくれたんですね」
「世の中には己の欲の為に平気で奪い取る人もいます」
これもだ。人間なのだ。己にある欲望に耐えられない輩なのだ。
「ですがあの人はです」
「そうしたことはありませんね」
「あの人はわかっているのです」
「何をですか?」
「人も。そしてこの戦いも」
「剣士同士の戦いについてもですか」
「わかっておられるのです」
そうだというのだ。中田は。
「全てです」
「そういえば何か」
樹里もだ。ここで言った。
「達観した感じがありますね」
「この戦いは不毛です」
そうした戦いなのだともだ。聡美は話した。
「そのことをわかっておられるのです」
「あの人もですか」
「しかしです」
「しかし?」
「あの人はそれでも戦われます」
そうするというのだ。中田はだ。
「そうしないといけませんから」
「あの人には事情があるんですか」
「あの人にとっては絶対の」
事情があるというのだ。聡美は上城だけでなく樹里にも話していた。
「それがあります」
「そうですか」
「そうです。ですから貴方が刀を持てば」
そうなればだ。どうなるかというのだ。
「あの人は貴方と戦われるでしょう」
「そうなるんですね」
「そうなります。絶対に」
そしてそれはだ。絶対だというのだ。
「貴方は剣士同士との戦いを終わらせたいのですね」
「はい」
これが今の上城にとっての絶対のことだった。
「そうです。ですから」
「刀は。剣士に対してはですね」
「出してはいけません」
これが聡美にとっての絶対だった。絶対に告げることだった。
「そしてそれはです」
「それは?」
「他の剣士達に対してもです」
中田だけではないのだ。剣士は。
「貴方とあの人を含めて十三人の剣士がいるのですから」
「僕以外の十二人の剣士に対しては」
「戦いを終わらせたいのならですね」
「絶対に刀を出してはいけません」
そうしろというのだ。
「何があっても」
「わかりました」
上城は強い声でだ。聡美のその言葉に答えた。
「そうさせてもらいます」
「戦いを終わらせることは難しいですが」
これはもう既に確めていることだった。他ならぬ上城が最もだ。
聡美はそのことを上城に話してだ。そうしてなのだった。
そのことを確かめ合い。さらにだった。
聡美は樹里にも話した。
「貴女もまた」
「私もですね」
「この戦いを終わらせたいですね」
「はい」
その通りだとだ。彼女もこくりと頷いて答えたのだった。
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