第七話 中田の言葉その二
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「剣を持っている相手だけなんだよ」
「じゃあ今は」
「君は剣を抜かないだろ?」
軽い口調だが問うたことは真剣なものだった。
「そうだよな」
「はい、今は」
「ならいいさ。闘わないさ」
笑ってだ。上城に告げたのだった。
そしてだ。さらにだった。
「その黄金もいらないさ。好きにしなよ」
「黄金もですか」
「確かに欲しいさ」
このことは否定しなかった。
「けれどそれでもな」
「闘わないとですか」
「闘って勝って手に入れるのはいいんだよ」
中田の考えではそうだった。報酬という考えなのだ。
「けれど盗みはよくないよな。強盗も」
「だからですか」
「ああ、いいさ」
上城が持っているその黄金をだ。いいというのだ。
「君が持って好きに使うといいさ」
「そうしていいんですか」
「俺が手に入れるものは戦って手に入れるものなんだよ」
あくまでそういうものだというのだ。
「奪うものじゃない。そうだからな」
「じゃあ今は」
「帰させてもらうさ」
明るく笑ってだ。踵を返した。
そのうえで上城に背を向けた姿勢で右手を振ってだ。
彼はだ。別れの言葉も出したのだった。
「それじゃあまたな」
「本当にいいんですか?」
「何度でも言うぜ。俺は戦って手に入れるんだよ」
つまりだ。奪わないというのだ。
「そういうことさ。まあ闘いたくなったら何時でも呼びな」
「僕は絶対に」
「心変わりしたらだよ」
その場合はだというのだ。
「その場合は呼んでくれよ。それじゃあな」
「はあ。じゃあまた」
「お茶でも飲もうぜ。今度は」
屈託のない別れ言葉を送ってだ。中田は消えた。
そうしてだ。残った上城は。
釈然としない顔で樹里達のところに戻ってだ。そしてだ。
彼はだ。こう二人に言った。
「終わったけれど」
「そうね。これで」
「はじめての戦いは終わりましたね」
「覚悟はしていたよ」
中田と会っただ。その時にはというのだ。
「けれどそれでもね」
「そうね。闘わずに済んだわね」
このことをだ。樹里も言った。
「よかったわよね」
「うん、よかったよ」
上城はほっとした顔で話す。
「闘わなくて」
「中田さん言ってたけれど」
「闘うのは刀を持っている相手だけだって言ってたね」
「ええ、言ってたわ」
その話をだ。二人はするのだった。
「何か。そうしたところは」
「しっかりとした考えを持っておられるのね」
「あの人ですが」
二人にだ。聡美が言ってきた。
「決して悪い人ではありません」
「そうですね」
上城がすぐに聡美に応えた。
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