第零話 炎の覚醒その一
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久遠の神話
第零話 炎の覚醒
ごくありきたりのリビング。木の床のその部屋のやはり木のテーブルに座ってだ。彼は今はトーストを食べている。
彼の後ろの台所ではエプロンを着た四十代の女がだ。黒いフライパンで何かを焼いている。そうしながらだ。彼に尋ねてきた。
「ねえ」
「何だよ」
「あんたベーコンエッグ食べるわよね」
こう彼に問うたのだ。細長めの顔に垂れた奥二重の目、眉は黒く一文字でそれぞれ斜め上にあがっている。唇はしっかりと横にあり鼻は高めでいい形をしている。髪は耳が隠れるまで伸ばし黒い。その彼がだ。
トーストを食べながらだ。こうその女に言うのだった。
「ああ、今焼いてるんだよな」
「ええ、そうよ」
その通りだとだ。女も彼に答える。
「まずはお父さんのをね」
「ああ、親父のなんだ」
「お父さんはハムエッグが好きだから」
見ればだ。実際にフライパンにあるのはハムエッグだった。白身と黄色い卵の部分に赤いハムの色もある。そこから美味そうな匂いもあがっている。
「それでまずはね」
「親父のなんだ」
「次にあんたよ」
彼だというのだ。
「あんたの次はね」
「あいつだよな」
「和歌子は起きたの?」
「起きたんじゃないの?」
彼の返答は実に素っ気無いものだった。
「そろそろ朝練の時間だしさ」
「ちょっと見てきてくれる?」
母は焼いたハムエッグを皿に移しながら彼に言う。
「今からね」
「えっ、何でだよ」
「遅刻したら駄目じゃない」
それでだとだ。彼に言うのだ。
「部活っていってもね。だから起こしてきて」
「あいつが勝手に起きるだろ」
不機嫌になった声でだ。彼はトーストを食べながら母に言葉を返す。
「そんなの別にさ」
「嫌なら別にいいわよ」
彼の返答にだ。母はこう返すのだった。
「その代わりね」
「ベーコンエッグなしだっていうんだよな」
「普通の目玉焼きになるわよ」
つまりだ。ベーコンを入れないというのだ。ベーコンを入れないと何になるか、何の変哲もない目玉焼きになってしまう。見事な恫喝であった。
「それでもいいのね」
「目玉焼きになるのかよ」
「それでどうするの?」
こう問い返す母だった。
「どっちがいいの?」
「ベーコンエッグに決まってるだろ」
彼の返答はこれだった。
「目玉焼きとベーコンエッグじゃな」
「全然違うわよね」
「わかったよ。今起こすよ」
彼は嫌々といった顔でだ。携帯を胸のポケットから出してだ。
そのうえでだ。メールを入れたのだった。
それを済ませてからだ。母に言った。
「起こしたぜ」
「あんたねえ」
「携帯でもいいだろ」
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