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戦国異伝
第四十二話 雨の中の戦その七

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「義元殿御自身を」
「麿をというのか」
「虜にさせてもらいます」
「麿を捕まえるというのか」
「左様。勝負に勝ったのでそれで宜しいですな」
「好きにするがいい」
 それをだ。いいという義元だった。
「麿は敗れた。それではな」
「では」
 毛利は義元の言葉を受けたうえでだ・あらためてだ。
 己の周りにいる足軽達にだ。こう命じたのだった。
「では縄でじゃ」
「はい、それでは」
「今より」
 こうしてだった。足軽達がだ。
 義元を起き上がらさせそのうえで縄で縛ってだ。彼を虜としたのだった。そしてその頃氏真もだった。彼もまた、であった。
 森長可のだ。その槍を受けた。その槍に刀を出した。
 槍は防いだ。しかしだった。
 その刀は吹き飛ばされだ。得物がなくなった。
 そこに十字槍がさらに来た。その喉元に突きつけられた。
「うっ・・・・・・」
「勝負ありですな」
 十字槍を突きつけた森長可の言葉だ。両手にその槍を持ちだ。彼に問うたのだ。
「これで」
「止むを得ん」
 無念の声でだ。言う氏真だった。
「好きにするといい」
「では。このままです」
「槍で一息にか」
「虜とさせてもらいます」
 彼もだ。こう言うのだった。
「そうさせてもらいます」
「命は助けるというのか」
「どうされますか」
 氏真にあらためて問う。
「下られますか。それとも」
「最早得物は持ってはおらん」
 刀は派手に旋回して弧を描きだ。彼の後ろに突き刺さっている。そうなってしまってはもうどうしようもない。そうした状況ではだ。
 彼はだ。こう言うしかなかったのだった。
「ではじゃ。下ろう」
「下られますか」
「それしかない」
 だからだというのだ。
「ではじゃ」
「はい、それでは」
 こうしてだった。氏真も下るのだった。そしてだ。
 今川の当主と嫡男が虜になったことをだ。織田は大声で叫ぶのだった。
「義元殿捕らえたり!」
「氏真殿下られたり!」
 このことがだ。叫ばれるとだ。
 今川の兵達は動揺を覚えた。それは忽ちのうちに。
 恐慌状態になった。彼等はそのままだった。
「く、下れ!」
「いや、殿をお救いしろ!」
「若殿を!」
「しかし何処におられる!」
 話はだ。混乱を極めていた。
「殿は一体何処におられる!」
「まさか若殿まで捕らえられるとは」
「どうすればいいのだ、一体」
「果たして!」
 そしてだ。やがてだ。
 雨の中でだ。彼等は戦意を失っていった。何しろ総大将とその嫡子は捕らえられているのだ。こうなってしまってはだった。
「仕方ないな」
「そうじゃな。最早な」
「去ろう」
「帰ろう」
 こうした話がだ。自然に出た。
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