第四十二話 雨の中の戦その三
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「まさかここでか」
「はい、それでは」
「殿はここからお逃げ下さい」
「この場は我等が引き受けます」
「ですから一時」
「何を言うか」
義元はだ。逃げよという家臣達の言葉を一蹴した。そのうえでだった。
「麿とて武門の家の者ぞ。さすればじゃ」
「戦われますか」
「この場で」
「当然じゃ」
こう言うのであった。
「麿も戦うぞ」
「左様ですか。さすればです」
「我等もまた」
「殿と共に」
「ここで」
「では父上」
そしてだ。氏真もだった。
彼自身刀を抜き兜を被っている。そのうえで自身の父に言うのである。
「それがしもまた」
「御主も戦うというのじゃな」
「この剣の腕お見せ致す」
こう言うのである。
「免許皆伝のこの腕を」
「剣は一人を相手にするもの」
義元は戦うという我が子にだ。こんなことを言った。
「麿は弓の方がよいと言ったな」
「弓ですな」
「麿は東海一の弓取りと呼ばれておる」
その通り名がだ。そのまま義元の誇りになっている。
その誇りをあえて己で言ってからだ。義元はあらためてであった。
「だからそなたにも弓を勧めたがのう」
「ですがそれがしは」
「しかしこの雨ではじゃ」
弓はとても使えない。そういうことだった。
「ではじゃ。氏真よ」
「はい」
「その剣好きなだけ振るえ」
そうせよとだ。息子に告げた。
「よいな。そうせよ」
「畏まりました」
「さて。麿もじゃ」
義元自身もだ。どうするかというのだ。
見れば彼も刀を抜いている。そのうえで戦に向かうのだった。
織田の軍は遂に本陣の最後の幕を突き破った。そのうえでそれぞれ叫ぶのだった。
「義元殿は何処!」
「いざ尋常に勝負!」
「殿を御護りしろ!」
「何としてもこ防げ!」
織田軍の声とだ。今川軍の声が交差する。
そしてそのうえでだ。彼等は互いに剣を交える。
今川の将兵達は果敢に戦う。しかしであった。
織田の軍は強かった。少なくともこの二千の軍はだ。
誰もが勝ちだけを見ていた。最早それ以外には何も見ていなかった。
馬上からだ。徒歩のままでしかもつい先程まで酒を楽しんでいた今川の者達とは全く違っていた。まさに全員全てを賭けていた。
その中でだ。彼等は戦いだ。今川の者達をだ。
「どけ!」
「御主等に用はない!」
こう叫んでだ。彼等をその刀や槍で次々に弾き飛ばす。倒れ伏すのは今川の者達だけだ。
織田の軍勢の中には前田や佐々といっただ。母衣衆あがりの猛者達も多かった。彼等の活躍はとりわけ凄まじいものがあった。
前田は馬上から槍を左右に振るいだ。今川の兵達を薙ぎ倒していく。
槍が振るわれる度にだ。多くの兵達が叩かれ飛ばされていく。雨の中でその姿はだ。まさ
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