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戦国異伝
第四十二話 雨の中の戦その二

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「全く。飲むなとは言わぬが」
「飲み過ぎるなというのに」
「今は仮にも戦をしておるのだぞ」
「それで暴れては」
 というようにだ。彼等は呑気なものだった。
「仕方ないのう。止めるか」
「そして叱っておくか」
「そうじゃな。そうしよう」
「仕方のない奴等じゃ」
 こう話してだ。声のする方に向かう。しかしだ。 
 そこにだ。豪雨の中からだ。
 青い軍勢が来た。それは瞬く間に彼等を蹴散らしていく。
「な、何じゃ!?」
「何ごとじゃ!?」
「何が起こった!」
 こうだ。今川の者達が驚きの声をあげる。
 その彼等は青い軍勢に弾き飛ばされた。まさに為す術もなくだった。
 そのうえで泥の上に尻餅をつきながらだ。呆然として言うのだった。
「な、何なのじゃ」
「青、青というとじゃ」
「織田か」
 誰かが言った。
「織田なのか」
「馬鹿な、織田がどうしてここに来る」
「この桶狭間に」
「来る筈がない」
 こうだ。彼等はそのこと自体を信じようとしなかった。
「まさか。この様な」
「主力は美濃との境にいる筈だ」
「それが何故瞬時にここに来る」
「いや」
 ここでだ。尻餅をついている者の一人が言うのだった。
「まさか。清洲からこの桶狭間まで」
「何っ、二千でか」
「僅か二千で来たというのか」
「二万五千の我等と戦いに」
「この桶狭間に来たというのか」
「しかしあれは青い」
 その青こそがだった。
「青は織田の色ぞ」
「ではあれば間違いなくか」
「織田の者」
「織田の軍か」
「そうじゃ。どう見てもじゃ」
 そのことが確かめられる。しかしだ。
 彼等は追おうにもだ。最早腰が抜けてしまっていてだ。動けなくなってしまっていた。最早本陣に向かって突き進む馬蹄の音を聞くだけであった。
 しかしだ。その彼等に気付いてだ。
 何とか迎え撃とうとする者もいた。彼等はその二千の軍の前に立とうとする。しかしだった。
 その彼等にだ。織田の軍は。
「ええい、どけ!」
「邪魔だ!」
 槍を振るいだ。左右に吹き飛ばすのだった。
 それで彼等を退けていく。今川の者達は個々に向かうだけでだ。力にはなっていなかった。
 だが騒ぎにだ。本陣も遂に気付いたのだった。
「むっ、まさか」
「あの声は」
「敵か!?」
「織田か!?」
 それを察するとだ。すぐにであった。
「いかん、迎え撃つぞ!」
「殿に兜を!」
「兜をここに!」
 義元の兜が持って来られた。八龍の五枚兜だ。黒に金の煌きを放つそれが持って来られだ。
 義元に被せられる。そのうえでだった。
「殿、織田が来た様です」
「織田の軍がです」
「ううむ、信じられん」
 立ち上がった義元は唸る様にして述べた。最早酔いは完全に醒めている。
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