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戦国異伝
第四十一話 奇襲その九

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「してあのうつけに茶を淹れさそう」
「茶器はどうされますか」
「そちらは」
 次第に茶器も刀や馬の様にその価値が認められてきていた。中には一国に匹敵する価値があると言われている茶器さえあるのだ。
 その茶器についてだ。今川の家臣達は主に問うのだった。
「やはりそれもですか」
「召し上げられますか」
「そうされますか」
「そうじゃのう。命は助けるのじゃしのう」
 それならばだというのだ。義元はその黒く染めた歯を見せながら話す。
「それ位はよいじゃろうな」
「織田の茶器を殿のものに」
「そうされますか」
「それも楽しみになってきた」
 もう既に杯は手にしている。家臣達もだ。そのうえでの言葉だった。
「では。その時はじゃ」
「織田の茶器も殿のものに」
「そうなりますか」
「ははは、よいことじゃ」
 また言う義元だった。
「天は麿を導いておるのう」
「左様ですな。まさに」
「幕府を継がれますし」
 血縁だった。とにかく今川家は足利将軍家の縁戚であり将軍の継承権まである。そのことが義元の誇りの源にもなっているのだ。  
 その誇りのままにだ。彼は言うのであった。
「そうじゃ。麿こそが天下を治めるに相応しい者ぞ」
「ですな。この乱れた世を収め」
「戦を終わらせられる方です」
「その通りじゃ。では飲もうぞ」
 ここでだ。義元は本格的に飲もうとした。しかしだ。
 その時にだ。不意にだった。
「むっ、これは」
「雨?」
「そうだな、雨だな」
「これは」
 急にだ。上からぱらぱらときだした。今川の者達はそれを見てまた言う。
「ここで雨とは」
「また急ですな」
「全く以て」
「よいではないか」
 義元の上機嫌は雨が降っても変わらない。
 彼は杯を手にしたままだ。こう家臣達に言うのであった。
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