第四十一話 奇襲その四
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
「この戦、一瞬で決まるぞ」
「一瞬ですか」
「それで」
「狙うは一つぞ」
あえて二万五千の大軍については言わなかった。
「敵の総大将義元の首一つぞ」
「その首を討ち」
「そのうえで」
「討てば恩賞は思いのままだ」
戦の功において当然のことだった。敵の総大将の首を取る、これ以上の功はない。それを挙げればだというのである。
「よいな、その場合はだ」
「では是非共」
「今川殿の首を」
「この手で」
「それで殿」
ここで、だった。不意にだ。
可児がだ。信長にこんなことを話してきたのだった。
「今川殿の首を取れは褒美は思いのままですね」
「そうじゃ。何でも好きなものを与えるぞ」
まさにそうだというのだ。その信長にだ。可児はさらに言ってきた。
「ではです」
「では。何じゃ」
「生け捕りにしてはどうでしょうか」
こう言うのであった。
「今川義元殿をです」
「何っ、生け捕りにか」
「義元殿を生け捕りにすれば。首を取るより大きいのでは」
「それができればな」
そのことを前提にしてだ。信長も応えた。
「さすれば今川の軍をその場で降伏させられる」
「左様です。さすれば」
「しかし容易ではない」
信長はぴしゃりとした口調で可児に返した。
「敵を生け捕りにするのがどれだけ難しいかはそなたもわかっておろう」
「確かに。首を手に入れるのは容易いものです」
可児にとってはそうだった。伊達に笹の才蔵と呼ばれている訳ではない。彼は己が取った首に自分の功を示す為にその首の口に笹を入れるのだ。だから笹の才蔵と呼ばれているのだ。
「生け捕るのはそうはいきませぬ」
「しかしあえてそれを言うか」
「無論、無理なら首を取るべきです」
彼もその場合はというのだ。
「しかし。狙えるならばです」
「生け捕りをすべきと申すのだな」
「さすればどうでしょうか」
「できる者がおればやってみよ」
信長は可児のその言葉にこう返した。
「できるならばだ」
「あくまでその場合は」
「左様。まあできるとすれば我が家でもそうはおらぬな」
いないとは言わなかった。できそうな者がいることはだ。信長はすぐに察した。
しかしその名を挙げればその者が功を焦ると見てだ。彼は彼等の名前をここでは出さなかった。そうしてそのうえでまた話すのだった。
「では義元を生け捕りにすればだ」
「はっ」
「その時は」
「望むままのものを与える」
こう言うのであった。
「その者の望むままのものをだ」
「それをですか」
「下さいますか」
「できればだ。わかったな」
「はっ、それでは」
「是非共」
「何度も言うが無理をするな」
このことは念を押す信長だった。
「決してだ。少しでも無理と思えばだ」
「首を
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ