第四十話 桶狭間へ四
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これまで以上にしっかりとした顔になってだ。彼は話した。
「この留守、しかと守るぞ」
「では。その様に」
「これより」
「兄上はすぐ戻られる」
信長の勝利は確信しているのだった。それは絶対だというのだ。
「そしてその時はだ」
「はい、その時はですね」
「祝いですか」
「酒に茶を用意しておこう」
茶もだというのだ。酒だけではなくだ。
「兄上は酒は駄目だからのう」
「あれがどうも不思議ですが」
「殿が飲まれぬというのは」
「意外です」
小姓達も信長の下戸にはだ。こう思っていた。
信長は一見すると飲みそうなのだ。しかもかなりの量をだ。しかし彼は酒を全く飲まない。茶を飲むだけなのだ。それが彼なのだ。
「しかし、それもまた殿だと思えます」
「酒を飲まれぬというのもまた殿ですな」
「そう思えるから不思議です」
「そうだな。確かに兄上だ」
酒を飲まないのが信長だとだ。信行は言うのだ。
「酒を飲まず茶を飲まれるのがな」
「では甘いものも用意しておきますか」
「祝いに」
「そうじゃ。何か用意しておこう」
信長は酒が駄目でだ。甘いものを好むのだ。これまた最初は驚くことだがそれでもだ。それが信長だと頷ける個性であるのだ。
こうしてだ。彼等は留守を守りながら祝いの用意もするのだった。戦はまだはじまってはいない。だがその勝ちは確信されていたのだ。
信長は一騎熱田に向かう。周りは真っ暗闇だがその中をだ。全力で馬を駆っている。
まるで周りに何もないかの様に疾駆していく。左右の木々に当たることはない。まさにそこに何もない道を進むが如しだった。
そしてその彼の後ろからだった。声がしてきたのだ。
「殿、申し訳ありません!」
「今参りました!」
家臣達のだ。その声がしてきたのだ。
彼等は既に具足を着けて陣羽織も羽織っている。その姿で信長の後ろに来てだ。そうしてそのうえで主に対して言うのである。
「遅れました」
「返す言葉もありません」
「ははは、そろそろだと思っていたぞ」
信長は自身の周りに来た彼等にだ。笑いながらこう告げた。
「丁度よい頃じゃな」
「熱田まで行かれるのですな」
「そうされるのですか」
「そうじゃ、まずは熱田じゃ」
信長はそこだとだ。その彼等に話す。
「そこで兵達を集めじゃ」
「そのうえで戦勝祈願ですか」
「そうされますか」
「まずはそれからじゃ」
信長は確かに神仏には縁遠い男である。しかしだった。
時にはこうして祈願をすることがある。そうした意味で神仏の類を全く信じていないとは言えない一面もあるのだ。この辺りは複雑なところだ。
その彼はだ。熱田に行くと言ってであった。そのうえで周りに問うのだった。
「兵の数は幾らじゃ」
「はい、二千です」
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