第四十話 桶狭間へ三
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城にいる足軽達を全て連れてだ。熱田に向かうのだった。
「急げ!」
「殿だけではないぞ!」
「我等もだ!」
「すぐに行くぞ!」
「熱田までに合流するぞ!」
そしてだ。その彼等を見送るのはだ。
信行だった。彼は自身も出陣しようとしたところでだった。
そこでだ。帰蝶に呼び止められたのである。
「御待ち下さい」
「何か?」
「城の留守です」
そのことについてだ。信行に言ったのである。
「それはどうなりますか」
「そういえば今は」
既にだ。主だった家臣達は出てしまっていた。それではだった。
留守を出来る様な者はだ。一人しかいなかった。その者こそがだ。
「では私が」
「はい、それで御願いします」
こう信行に行ったのである。
「清洲の留守をです」
「わかりました」
信行は素直にだ。彼女のその言葉に頷いてだ。
そのうえで城に引っ込みだ。留守役になるのだった。そしてその中でだ。僅かに残る小姓達にだ。こんなことを話すのだった。
「思えばこれもじゃ」
「これもですか」
「御役目ですか」
「うむ、わしはこういうことをする役回りなのだろう」
こう彼等に話すのである。
「結局のところはな」
「そうした意味では平手様と同じですね」
「そうなりますね」
「ははは、そうだな」
小姓達のその言葉にだ。信行は顔は崩さなかったが陽気に笑って返した。
「そうして兄上を補佐するのだろうな」
「そうなるかと」
「ならそれでよい」
達観した言葉だった。
「わしはこれからも裏方に徹しよう」
「そうされますか」
「これからも」
「どうもわしは目立つのは得手ではない」
己のその個性もだ。わかっているのだった。
「そういうことよりもだ」
「裏方だと」
「そう仰いますか」
「しかもそれをするのが好きだ」
自分自身の好みもだ。そちらだというのである。
「裏方をするのがな」
「その辺りも平手様と同じでは?」
「確かに」
小姓達は信行の今の言葉を聞いてそれぞれ述べた。
「もっとも平手様はどちらかというとご意見番ですが」
「そうした方ですが」
「わしも必要とあらば兄上に申し上げるが」
信行にしてもだ。
「しかし爺の小言はまた別格じゃ」
「あれには殿も閉口されますからな」
「どうにも仕方がないと」
「実際そうしたご意見番も必要なのですか」
「そうじゃ、必要じゃ」
まさにそうだと述べるのだった。信行の表情も確かなものだ。
「爺とわしが留守を守り言わせてもらう役じゃな」
「織田家においてはですか」
「そうなりますか」
「うむ、ではだ」
ここまで話してだ。信行は声の調子を変えた。そうしてだった。
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