第三十九話 なおざりな軍議その八
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「尾張を守れば次は伊勢に出るだろうしな」
「ですな。それはもう」
「既に策を巡らしていますし」
「それでは」
「だからよ。今川との戦からさらに忙しくなるのよ」
政と策においてだ。そうなるというのだ。
「それがわかったな」
「はい、そちらですか」
「戦だけではありませぬか」
「兄上は戦も得意だ」
それもだというのだ。
「しかしそれ以上に」
「政がですか」
「得手とされていますか」
「その辺り武田や北条と同じか」
それぞれ戦国に大きな力を誇示している家であった。そしてその主達だ。
「毛利もそうか」
「安芸のあの」
「緑の」
「どの者も確かに戦に強い」
そのことでも定評があった。伊達に虎や獅子と呼ばれてはいない。
「しかしそれ以上に政よ」
「そういえば武田の政は見事ですな」
「家をまとめ。そして」
「田畑も町並みも見事にしております」
「堤や道も万全です」
戦で手に入れた領地を他者が唸るまで治めてみせる、それが武田なのだ。
「ああした家と同じですか」
「殿は」
「兄上は戦で勝てばそれでよしという方ではない」
まさにだ。信長の本質だった。
「むしろそこからだ」
「戦で手に入れたものをどうするか」
「それこそが大事なのですか」
「殿にとっては」
「わかったな。それがな」
小姓達を見据えながら話す信行だった。
「では。戦が終わってからがだ」
「まことに忙しくなる時」
「まさにですね」
「では。気を抜くことはするべきではない」
信行は真面目な顔で話した。
「よいな」
「わかりました。それでは」
「その様に」
「さて、わしの話は終わりだ」
信行はこれでだと話した。
「それではこの茶を飲めばだ」
「休まれますか」
「そうされるのですね」
「うむ。しかし茶を飲むと」
どうかというのである。茶を飲むとだ。
「妙に目が冴えるのう」
「確かに。それがしもです」
「それがしもでございます」
このことはだ。小姓達もだった。
そしてだ。彼等はその目をしばたかせてだ。それぞれ言うのである。
「これで夜眠れなければです」
「困りますな」
「全くです」
「うむ。そういえば兄上は」
その信長のことをだ。また話す信行だった。
「権六や新五郎達にも茶を飲ませたな」
「主だった家臣の方々全てに」
「そうされてます」
「無論殿自身もです」
「飲まれました」
誰もがだ。その茶を飲んだというのだ。このこともあるのだった。
「では。今宵は」
「眠られぬのでは?」
「誰もが」
「とにかく何が何もかもわからん」
信行はさらに考えてだ。それがまとまらなくなっていた。
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