第三十八話 砦の攻防その十
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「御主等はまた伊勢に行くのじゃな」
「左様です」
「久助殿や二郎殿達と共に」
「その予定です」
「わしも行くしな」
他ならぬだ。柴田もだというのだ。
「伊勢には結構行っておる」
「そうされてますな、確かに」
「権六殿も」
「殿は伊勢を手に入れられるおつもりだ」
そのことはもう織田家ではよく知られていることだった。だが信長はこれまで伊勢には一兵も送っていない。彼等を送っていっているのだ。
その中には柴田もいる。それでこう話すのだった。
「だから我等を何度も送ってだ」
「それで各家を取り込むなり何なりして」
「そのうえで、ですな」
「伊勢を手に入れられる」
「そうした御考えなのですか」
「そうじゃ。わしはどちらかというとじゃ」
ここでは柴田のその気性が自身の口から話される。
「謀よりも戦じゃがな」
「そうですな。権六殿はそちらになりますな」
山内もそれはその通りだというのだった。
「戦の方がお好きですな」
「しかし謀もできん訳ではないからのう」
意外とだ。彼は器用なところもあるのだ。これで案外だ。
「だから任せてもらっておるが」
「やはりお得意ではありませんか」
「うむ、自分で言うのも何じゃが」
こう山内に答えて話すのである。
「そうしたことはやはりな」
「好きにはなれぬと」
「何度も言うがわしはやはり戦じゃ」
織田家きっての武勇がだ。それが出るというのだ。
「若しくは政じゃな」
「権六殿は政もされますな」
「よく殿に命じられておりますな」
「いや、むしろ政においては」
他の者達もだ。こう考えていき述べていくのだった。
「殆んどの者が命じられますな」
「それこそ慶次殿か才蔵殿以外は」
「殆んどの者ですな」
「あの二人はまた特別じゃ」
柴田の口調がいささか忌々しげなものになる。
「特に慶次はじゃ」
「そこでまたですか」
「慶次殿となりますか」
「全く。戦がなければ遊んでおるだけじゃ」
傾奇者健在というわけである。
「政もせねば策もせぬからのう」
「しかし。政や策をする慶次殿というのは」
「全く想像できませんが」
「才蔵殿と共に」
「それはどうしても」
誰もがだ。それはというのである。
「慶次殿はやはり戦ですな」
「戦の場で槍を持たれてこその慶次殿です」
「確かにな。あ奴はまあ嫌いではない」
柴田は何だかんだという調子で慶次について話す。
「暇があると悪戯を考えるがのう」
「してその場合は」
「悪戯を受けられた場合はですな」
「容赦なくでござるな」
「殴り飛ばしてやることにしておる」
実際にそれをするのが柴田だ。ある意味において信長以上に恐ろしいところがあるのだ。
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