第三十八話 砦の攻防その二
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
彼等は今川、つまり元康の軍を待つ。するとだ。
すぐに四方八方を取り囲んでだ。そのうえで。
次々に火矢を放ってきた。瞬く間に何本も砦の中に入る。
だがそれに対してだ。織田方は。
すぐに布、水で濡らしたそれを火矢の上に被せてだ。消していくのだった。
「すぐにどけるでないぞ!」
木下はそうして火を消す足軽達に言って回る。
「完全に消えてからじゃ!」
「煙までですか」
「それが消えてから」
「そうじゃ、火を侮るな」
火は消えたと思ってもすぐにまた気が出る。それがわかっていてのことだった。
「よいな、決して焦ることはない」
「焦らずともですか」
「よいのですか」
「そうじゃ。水はたっぷりとある」
鷲津には井戸がある。しかも木下はこの時に備えて水を多く用意していたのだ。しかもこの季節はどうかというとだ。
「今は湿っておるからのう」
「だから火はですか」
「それ程強くはならないと」
「そうじゃ。雨が多い季節だからのう」
それでだというのだ。
「ここにもじきに雨が降るぞ」
「では火はそれ程恐れなくてよい」
「左様ですか」
「そうじゃ、まずは焦るな」
木下が注意するのはだ、むしろそちらだった。
そのことを足軽達に強く命じつつだ。さらにだった。
「消した火矢は逆に打ち返せ」
「敵の矢をですな」
「そうせよと」
「そうじゃ。敵のものは敵に返してやるのじゃ」
笑いながら足軽達に言って回る。彼は言う時に立ち止まってはいない。砦の中を駆け回ってだ。そのうえで指示を出して回っているのだ。
「よいな、そうせよ」
「はい、それでは」
「その様に」
「うむ、まずは敵の火を防ぐのじゃ」
こうしてだ。火矢に対してはだ。かなり的確に防いでみせたのだった。
どれだけ火矢を打ち込まれてもだ。砦はだ。
一行に燃える気配はなかった。それを見てだ。
元康はだ。指示を変えた。こう左右の己の旗本達に命じた。
「次はじゃ」
「火矢は止めてですか」
「そのうえで、ですな」
「そうじゃ。矢は放ち続ける」
それはだと言ってであった。
「このままじゃ」
「そして砦の壁を登りますか」
「いよいよ」
「うむ、見たところ」
砦を見る。するとだ。
「壁は高いな」
「しかも壕は深く広いです」
「砦にしては」
「よくもあそこまでしたものじゃ」
元康にしても感心する程だった。砦の壁は高い。しかもだ。
壕があるがそれもだ。実に深くしかも広かった。ちょっとした城程のものがある。
そういったものを見てだ。彼は言うのであった。
「これは容易には陥とせぬな」
「そうじゃのう」
ここでだ。この場ではじめて雪斎が声を出したのだった。
彼もまた元康と共に砦を見ながらだ。こう言うのだ
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ