第三十七話 二つの砦その六
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彼は外を見た。丁度いい具合に晴れている。それならばだった。
「少し馬に乗ろうか」
「勘十郎様はそれですか」
「馬に乗られますか」
「そうされますか」
「うむ、そうする」
彼は馬だというのだった。そしてその馬についてこうも話した。
「兄上のあの荒い乗り方をしてみるか」
「勘十郎様がその乗り方をですか」
「それをされるというのですか」
「わしには合わぬかのう」
言ってすぐにだった。自分でこうも言うのだった。
「それは」
「そうですな。少し」
「勘十郎様はやはり馬もです。落ち着いて乗られるべきかと」
「走らせる時も」
「やはりそうなるか。わしには奔放な乗り方は合わぬか」
旗本達に言われてだ。信行も考えを変えた。
そのうえでだ。彼はこう言うのだった。
「では。いつも通り乗るとしよう」
「そうされた方がいいかと」
「それでは」
「うむ、ではそうして乗ろう」
こうしてだった。信行は彼に合った乗り方をするのだった。そうして彼も英気を養う。彼は兄にはあえて何も言わず時を過ごした。
清洲がそうした状況だった時にだ。鷲津にだ。
遂に敵が迫ってきた。その数は。
「五千か」
「それ位じゃ」
それだけの数だとだ。蜂須賀が佐久間盛重に話すのだった。
「それだけの敵が迫って来ておるぞ」
「それで将はあの二人じゃな」
「うむ、太源雪斎と松平元康じゃ」
まさにだ。その二人だというのだ。
「その二人と。それと三河衆じゃ」
「三河には武辺者が多い」
佐久間盛重はここでこう言った。
「しかも主の下に一つになる」
「だからこそ余計に強い」
「そうなのですね」
「そうじゃ。東海で随一じゃろうな」
その強さはだ。そこまでだというのだ。そう木下兄弟に話す。
そのうえでだ。佐久間盛重はこんなことも言ったのだった。
「今川の兵も弱いが織田の兵もまた弱い。それに対してじゃ」
「三河の兵は強い」
「兵も将もですか」
「そうじゃ。だから外に出てはいかん」
佐久間盛重はここで戦の仕方を決めたのだった。それは。
「やはりこれまでの話通りじゃ」
「篭城ですな」
「この鷲津に」
「そしてそのうえでじゃ」
木下兄弟に応えながらだ。そのうえでだった。
蜂須賀を見てだ。彼に告げた。
「首尾通り頼むぞ」
「うむ、暴れ回ってやるぞ」
蜂須賀は佐久間盛重の言葉に楽しげな笑みで返した。
「忍の技見せてやるわ」
「頼むぞ。ただじゃ」
「ただ?」
「松平には強い者が多い」
このことをだ。蜂須賀に念押しするのだった。
「十六の優れた臣がおりじゃ」
「そんなにおるのか」
「その中心に四人おる」
十六人の中にだ。さらに四人だというのだ。
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