第三十六話 話を聞きその四
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「何を考えておられるかわからんわ」
「その割に権六殿は殿がご幼少の頃よりお仕えしていますな」
「一度も見限られたことはありませぬな」
「わしも今更じゃ」
口を大きく笑って述べるのだった。
「殿といればこの程度はじゃ」
「そうでござるな。何をされるかわかりませぬ」
島田もこう言う。
「では最後の最後まで見させてもらうとしましょう」
「うむ、そうしようぞ」
柴田は最後に頷いたのだった。少なくとも彼等は誰一人として主を見限らなかった。そしてそれはだ。丸根と鷲津でも同じであった。
兵達は逃げない。あくまで砦に留まりだ。そのうえで敵を迎え撃つのであった。
その中でだ。佐久間盛重が木下に問うていた。既に砦は堀を深くし壁は二重にして簡単な櫓まで築いてだ。見違えるまでになっていた。
その櫓の上でだ。彼は木下に問うたのである。
「猿、よいか」
「はい、何でしょうか」
「ここまでしたがじゃ」
砦の備えをだというのだ。
「しかしこれでもじゃ」
「陥ちると申されますか」
「正直危ういであろう」
彼は顔を顰めさせて木下に問うのだった。
「我等は二つの砦を合わせても千ぞ」
「兵の数はですな」
「それに対して今川は二万五千」
その数を言うのだった。ここでもだ。
「確かに敵の先陣だけを相手にするがじゃ」
「それでも数が違いますな」
「そうじゃ。しかも先陣は三河武士じゃぞ」
三河武士がどういった者達かだ。彼は嫌になる程知っていた。
「あの強い者達じゃが」
「だからこれだけの備えをしたのです」
「油も糞も用意したな」
「左様です。とにかく用意できるものは用意しました」
「これで今川を完全に防げるか」
「長くかかって一週間です」
木下はここで時間を話した。
「一週間もちます」
「一週間しかもたぬのか」
「いえ、一週間かかればです」
どうかというのだ。それだけあればだ。
「充分です」
「充分だというのか」
「その間に殿が何かをされます」
目を鋭くさせてだ。そのうえでの言葉だった。
「わし等はそれまで待てばいいのです」
「ここで防げばいいのか」
「敵を引きつければさらにいのです」
今度言ったのは木下秀長だった。
「それだけの飯や水はありますし」
「ふむ、では心配はいらぬというのか」
「左様です」
木下秀長も言うのだった。
「我等は一週間だけ耐えればいいのです」
「それだけでございます」
「ううむ、一週間か」
その日を聞いてだ。佐久間盛重は唸る様にして述べた。
「一週間なら耐えられるかのう」
「大学殿なら大丈夫です」
「それだけでしたら」
いけるとだ。二人は話すのだった。
「わし等も頑張ります」
「死力を尽くして戦いますので」
「頼むぞ。今
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