第三十六話 話を聞きその一
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第三十六話 話を聞き
信長のところにだ。簗田が戻ってきた。そうしてだ。
主に対してだ。尾張の東のことを細かく話した。
それを聞いてだ。信長は確かな顔で頷いた。そのうえでの言葉だった。
「よし、それではじゃ」
「それではといいますと」
「桶狭間の辺りじゃな」
その場所を話に出すのだった。
「その辺りの百姓達に伝えておけ」
「何とですか?」
「酒を用意しておけとな」
前に話したことをだ。今も話すのだった。
「よいな。酒をじゃ」
「では。勝った暁には」
「違う、今川に飲ませる酒じゃ」
その為の酒だというのだ。
「桶狭間に来たその時にじゃ」
「今川に酒を献上せよというのですか」
「その通りじゃ。そうせよと伝えよ」
こう簗田に告げる。
「ふんだんにじゃ。馳走させよとな」
「あの、何故でしょうか」
簗田は主のその話を聞いてであった。
「敵に酒を飲ませるのですか」
「そうじゃ。飲ませるのじゃ」
また言う信長だった。
「ただ。このことは内密にしておくようにな」
「それがしだけが知っていよというのですか」
「わかったな。他言無用じゃ」
「殿がそう言われるのでしたら」
彼も納得はした。しかしであった。
主のそうした行動にはいぶかしむしかなかった。しかもだ。
信長の奇妙な行動は続く。美濃に向かわせた平手と一万二千の軍もだ。
そこから全く動かそうとはしない。ただそこに置いているのだ。
それを見てだ。家臣達はここでもいぶかしむのであった。
「今回ばかりはわからぬのう」
「流石に美濃には進ませぬが」
それでもだというのだ。
「かといっても清洲に呼び戻すでもなし」
「一体何を考えておられるのか」
「わからぬ」
「ううむ、まさか」
生駒はだ。こう予想を立てるのだった。
「殿は今川に清洲まで攻めさせ」
「そしてか」
「そのうえでじゃな」
「そうじゃ。この清洲をあえて取り囲ませ」
そのうえでだというのだ。生駒はその軍略で信長の考えを予想してみせた。語るその目は鋭く声も確かなものになっている。
「そこで平手殿の軍を呼び戻す」
「して城の内外から挟み撃ちにする」
「そうするというのか」
「そうじゃ。しかしそれは」
この策はだ。どうかというのだ。
「新五郎殿が言われていることじゃ」
「その通りじゃ」
その林がだ。生駒に対して答えた。
「それが一番妥当じゃからな」
「そうでございますな、やはり」
生駒もだ。林のその話に応える。
「今はそれが一番妥当でございます」
「しかし殿はどうもそう考えてはおられぬ」
林はこれ以上はないまでに怪訝な顔で語る。
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