第四話 元康と秀吉その五
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「もう一人はまた見つける」
「それに相応しい御仁をですね」
「しかしだ。わしは御前をその一人にしている」
「弟にですね」
「その御前は三国だ。その三国を任せる」
「果たして私にできるでしょうか」
今の竹千代にはである。何度聞いても夢のような話だった。その三国は今は今川義元が治めている。東海一の弓取りと言われている彼がだ。
「今川殿にとって代わるようなことが」
「今川か」
信長はその名を聞いてもだ。どうという顔も見せなかった。
「確かに勢力は大きいがどうということはない」
「どうという、ですか」
「そうだ、大したことはない」
また言ってみせたのだった。
「あの太源雪斎だけだ」
「あの方だけだと」
「兵も大して強くはない。それよりもだ」
信長の目が鋭くなった。強い光を放ちながら語る。
「武田だ、そして長尾だ」
「その二つですか」
「それに北条、毛利だ」
合わせて四つだった。どれも今勢力を大きく伸ばしている家だ。
「この四つの家がだ」
「信長殿にとっての敵ですか」
「大きな、な。わしはあの四つの家を全て倒さなくてはならぬだろう」
今信長は天を見ていた。その大きなものをだ。そこには彼にだけ大きなものが映っていた。そうしてそのうえで家康に語るのである。
「天下を制する為には」
「天下を」
「わしはやる」
彼はまた言った。
「わかったな。その為に御前の力が必要だ」
「私の力が」
「無論統一してからもだ」
それからもだと。信長の言葉は続く。
「今わしの下に集っている者達と同じくだ。御前の力を借りたい」
「統一してからも」
「統一は何の為にあるか」
信長が語るのは野心だけではなかった。
「それは何の為だ」
「民でしょうか」
竹千代は信長の言葉を聞いてだ。すぐにこの言葉を口に出した。
「それでしょうか」
「そう言えるな」
「はい、民があってこその全てです」
それはよくわかっていた。彼もである。
「ですから」
「そうだ、戦乱では民は完全に幸せにはなれぬ」
「太平になってこそ」
「天下太平になってこそ民は真の幸福を手に入れられる」
これが信長の考えだった。
「だからこそだ。わしは天下を手に入れる」
「民の為ですか」
「その為に私は天下を手に入れる」
何処までもだ。彼は天下を目指すというのだ。
「わかったな」
「わかりました。それでは」
「大きくなれ」
その竹千代への言葉である。
「駿河でもな」
「人質であろうともですね」
「悪いようにはされぬ筈だ」
信長はここでこうしたことも告げた。
「決してな」
「それは何故ですか?」
「御前の資質はわかる者にはわかる」
これは既にわかっている者の言葉だ。それに他ならない。
「雪
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