暁 〜小説投稿サイト〜
戦国異伝
第三十五話 奇妙な砦その九

[8]前話 [2]次話

「わしはやはり赤味噌よ」
「そうですね。それでは」
「さて、出羽がそろそろ戻ってくる」
 簗田のことである。
「面白い話をな」
「面白いですか」
「そうじゃ。面白い話を持って来る」
「では。それが来てから」
「さてな」
 帰蝶の今の問いにはだった。
 信長はとぼけてだ。こんなことを言うのであった。
「わしは今は動きたくないのう」
「では篭城ですか?」
「ふむ、どうしたものか」
 今度もだ。はっきりとしない返事だった。 
 そうしたはっきりとしない返事を続けてだ。彼はだ。
 のらりくらりとした調子でだ。こんなことも言った。
「とりあえずはこの胡瓜を食ってじゃ」
「食べて。そうしてですか」
「弓でも引こうか」
 今はそれだというのだ。
「天気がよいしな」
「そうですか。今日は弓ですか」
「そうじゃ。どうじゃそれで」
「それはいいのですが」
 今は流石にだ。帰蝶もだ。
 信長のあまりもの余裕、今川が出陣したというのに見せるそれを見てだ。
 不安を感じずにはいられなかった。それで彼に言うのだった。
「今はです」
「ははは、御主もそう言うか」
「申し訳ありませんが」
「そうじゃな。今はそういう時じゃ」
 それがだ。わかっているといった口調であった。
 しかしそれでもだった。信長の様子は全く変わらない。それでやはりなのだった。
「では。弓を引こう」
「そうされますか」
「うむ、そうするぞ」
 こうしてだった。彼は今は弓を引きに的の場所に向かうのだった。彼だけが余裕の中にあった。周りはそんな彼をいぶかしんで見るだけだった。


第三十五話   完


                2011・4・2
[8]前話 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ